第56回 国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール

国連本部視察団(特賞受賞者)の皆さん

- 第56回(平成22年度)入賞者発表 -

受賞者/演題
外務大臣賞 渋谷教育学園渋谷高等学校 藤井 萌子さん
「私にとっての国連ミレニアム開発目標」
法務大臣賞 宮崎県立福島高等学校 岡村 詩織さん
「日本は国連で何をすべきか」(「ノブレス・オブリージュの精神で」)
文部科学大臣賞 仙台東高等学校 大井 彩花さん
「ひとつの便利と百千の不幸」
財団法人
日本国際連合協会会長賞
沖縄県立糸満高等学校 森田 麻優里さん
「地球環境と国連」

入賞作品紹介

「私にとっての国連ミレニアム開発目標」

外務大臣賞
東京都 渋谷教育学園渋谷高等学校2年
藤井 萌子

「私の親友は、栄養失調でエイズの薬が効かなくなり、わずか19歳で命を落しました。私の国、南アフリカでは貧困もエイズも、他人事ではありません。ミレニアム開発目標において、極度の貧困とエイズの撲滅は最優先です。」「私は女性だから、働かされています。働かないと、学校に行かせてもらえないのです。インドにとっては女性の地位向上こそ最優先です。」「でも現在は世界同時不況のまっただなかです。私の国ロシアでは、まず自国の経済を立て直さなければ、ミレニアム開発目標に援助なんてできません。」これは私が7月に日本代表として参加したイタリアのジュニア8サミットでの一こまです。

静まった空気の中、私は手を上げました。世界各国の代表として集まった54人全員の視線が私に突き刺さります。「自分の国の主張ばかりしていても仕方がありません。世界同時不況だからこそ、本質的な国際協力無くして、ミレニアム開発目標の達成は不可能です。「和」の国日本は、今こそ本当の国際協力を呼びかけます。」9日間の議論で粘り強く説得した結果、「国際協力」の大切さを訴えるメッセージを宣言にまとめ、直接G8首脳陣に提出することができました。「国際協力」の複雑さや困難を実感した半面、それを乗り越えて、自分にもできることがあるのだということを肌で感じ、私の情熱に火がともりました。

5月にニューヨークで行われた模擬国連大会に参加し、ミレニアム開発目標の達成を進めるためには、全体の視点が大切だということを学びました。例えば、貧困はエイズを生み、母子感染を引き起こすエイズは、更なる貧困を引き起こします。健康や衛生の問題ともつながっています。それぞれの問題は密接に連鎖しているため、ミレニアム開発目標は、全ての国が、全ての目標に対し同時に取りくまなければ、実現できないのです。

しかし現状では、この国際協力はほとんど実現していないのです。模擬国連では、今の世界で使われている「国際協力」という言葉がいかにかけ声にすぎないか、ということを思い知らされました。ミレニアム開発目標の理念はすばらしいものだと誰もが、そして多くの国が認めています。ところが、具体的な政府単位の交渉では利害の衝突や、金銭面のやり取りが足かせとなり途端に議論が進まなくなるのです。

模擬国連とジュニア8サミットを経験して、私はいてもたってもいられなくなりました。この現状を変えるためには、私達が今、考え、伝え、動き出さなければなりません。イタリアから帰国して1ヶ月、私は“Actions, not Words”プロジェクトを立ち上げました。

“Actions, not Words.”言葉だけではなく、行動を。それはエイズ撲滅の啓蒙活動です。私はオリジナルリストバンドを作り、日本中の中高校生に買ってもらい、その売上をユニセフに寄付することにしたのです。校内で1週間のキャンペーンを行った結果、学校中でピンクのリストバンドが目立つようになり、24万円の募金が集まりました。廊下を歩いている時、これまで全く関心を見せなかったような生徒達がAIDSの事を話しているのが聞こえて、嬉しくてたまりませんでした。

この企画の最初に、私はプロモーションビデオとしてJ8で出会った世界中の友達にメールを送り、ビデオメッセージを頼みました。しばらくして、「頑張れ!応援している。」というメッセージが、ムービーファイルとともに返ってきました。“Actions, not Words!”画面の向こうのエイズで親友を無くした南アフリカの少年と、学校にも行けないインドの少女のあの力強いまなざしは変わっていませんでした。そしてその人たちの思いを背負って、私は今ここにいます。こうして今私たちが動き出す事こそ、私たちに出来る、本当の国際協力なのです。“Actions, not Words.”今の私たちの一歩は、国連ミレニアム開発目標にとってはほんの小さな一歩かもしれません。しかし、その小さな一歩が同級生の新たな一歩につながり、私たちの世代の新たな一歩に繋がり、いずれは世界を動かすことができる大きな一歩に繋がると私は信じています。“Actions, not Words!”言葉だけでなく、行動を!

「日本は国連で何をすべきか」(「ノブレス・オブリージュの精神で」)

法務大臣賞
宮崎県 宮崎県立福島高等学校 2年
岡村 詩織さん

もう10年程前のことですが、私は父の仕事の関係で2年間アメリカに住んでいました。既に記憶も曖昧なものになっていますが、その中でもはっきりと思い出せる出来事があります。

イースターのことでした。広い公園内で大人も子供も混じって、たくさん撒かれたお菓子を拾う行事がありました。その日は冷たい小雨模様でしたが、私はせっせとお菓子を拾いました。紙袋一杯になってほくほくしながら親の待つ場所へたどり着いたとき、お菓子で一杯のはずの紙袋は、雨に濡れて底がやぶけ、あんなに苦労して拾い集めたお菓子はわずか数個しか残っていませんでした。私が母にすがりついて大泣きしていたところ、体格のいいアメリカ人のおじさんが近付いてきたのです。父が事情を説明すると、彼は自分の持っていた大きなビニール一杯のお菓子を全て私に差し出したのです。私が拾った2倍も3倍もある量で、両親は遠慮したようでしたが、彼はなんでもないことのようににっこりと笑ったのを今でも覚えています。

私は今になってこのことを思いだし、改めてその意味を考えるようになりました。彼はどうしてこうしたことができたのでしょうか。自分の物を当然のように何の見返りも期待せず、躊躇無くぽんと与えてしまう。その根底にあるものを考えたとき、私はフランス語で言うところのノブレス・オブリージュ、「高貴な者の義務」という言葉を思い浮かべます。財産や権力・社会的な地位を持っている者にはそれ相当の責任が伴うという意味だそうですが、こういう考え方の伝統を持つ欧米人にとって、自分の物を相手に与えるということは、或いは当然のことなのかもしれません。

最近の中国に於けるウイグル自治区での民族紛争を始め、多くの紛争について国連の活動が取り沙汰されますが、その国連に日本人の職員が少ないということを知り、私はとても驚きました。最近の統計によると、2500人の全国連職員の中で、日本人の職員はわずか101名しかいません。これは、本来あるべき日本人職員数の半分にも満たない数だそうです。

国連職員になるためには、高学歴と語学力が必要となります。多くの国連職員は複数の言語を話すそうです。その言語を巧みに操り、紛争の渦中にいる人々と渡り合わなければならないのですから大変な仕事です。さらに、国連職員になるには覚悟も必要とされます。それは、自分の命や人生を賭ける覚悟です。平和維持活動で紛争地域に派遣される国連職員が命を落とすことも現実に起きているのです。そんな危険で大変な国連職員になるより、日本の大企業で働いた方がましだという若者が多いのが日本の実態です。

自分を顧みず、他を思いやり、他のために尽くす。日本にも以前は「無私の精神」という言葉がありましたが、いつから日本人は小さな自分の幸せだけにしがみつく国民になってしまったのでしょうか。外国人にあって日本人には希薄なノブレス・オブリージュの精神が、今こそ必要なのだと思います。今、世界は一神教と一神教による対立、絶対的正義と絶対的正義の対立によって、行き詰まっているように見えます。そういう時代だからこそ、今まで評価されなかった日本人の曖昧さや調和を重んじる心が、閉塞状況を打破する解決策になるのではないでしょうか。また、国際紛争の解決策として武力の行使を肯定してこなかった日本人だからこそ、発言権を持つ必要があると思うのです。

国連通常予算の負担金は世界で第2位であるにも拘わらず、日本人の発言権が弱いことはよく指摘されますが、これも日本人職員が少ないことと無縁ではないでしょう。私たち日本人が小さな自分の世界だけの幸せに安住せず、ノブレス・オブリージュの精神を持って世界全体の幸せを望んだとき、日本の国連での発言力も高まり、日本人が世界の平和に貢献できるときが来るのだと思います。もちろん、私のこれからの生き方もこの考え方の例外であるはずがありません。私は、私の人生という袋一杯のお菓子を、あのアメリカ人のおじさんのように、紛争で苦しむ子どもたちにポンとさりげなくカッコよく差し出せるような人生を歩みたいと考えています。

「ひとつの便利と百千の不幸」

文部科学大臣賞
宮城県 仙台東高等学校 1年
大井彩 花

「うちの携帯はまじボロイい。」

「新しいヤツ欲しいんだけど。」

皆さんは普段このような言葉を口にしたことはありませんか。おそらく多くの人が「あるある」と答えるのではないでしょうか。私もその中の一人です。人々が常に新しいモノを追い求める現在、携帯電話という小型機器はその機能性と利便性から世界中の人々に利用されています。通話は勿論、メールやインターネット、ワンセグなど様々な機能が搭載されていく過程で携帯電話は私達の暮らしに必要不可欠なものとされ、今では私達の体の一部となっています。

しかし便利になればなるほど、私達は知らず知らずのうちに大きな問題につながっています。一体それは何でしょうか。ネット犯罪でしょうか。人間関係についてでしょうか。

それは実は私達が直面している、より深刻な問題とは、携帯電話の部品に使用される希少資源を巡って起きている世界最大級の国際紛争に間接的に関わりを持っているということです。

私がこのことを知ったのは中学三年の総合学習の時間でした。コンゴという国では携帯電話の部品で数えきれない人が亡くなっている。このことを初めて知ったときは、言葉が出ませんでした。高校に入学して「もっと知りたい、知らなければならない」という思いが強まり、私はこの問題について徹底的に追求していこうと思ったのです。

早速、資料を集め勉強をしていくと、次のことが分かりました。コンゴには蓄電器に使われるタンタルや着信を知らせてくれるバイブレーターに使われるコバルトなどの資源が豊富に存在します。これらレアメタルは希少である特定の地域でしか採掘されないために世界各国から注文され、高値で取り引きされています。

コンゴ紛争はそれらの資源により周辺諸国を巻き込んで起こった紛争です。反政府勢力の武装集団による鉱山地域の住民の虐殺やレアメタルの輸出資源の略奪と不正取引による売上金の搾取、一方では政府軍による殺人やレイプ等の卑劣な行為も繰り返されています。

このことにより失われた命はここ10年間で約540万人にも及び、今現在においても一日の死者数は1300人にも上るほど犠牲者の多い世界最悪の紛争と化しています。

日々進化し普及し続ける携帯電話の部品ひとつの背景には、百千の人々の血と涙が流れているのです。自分の知らないどこかで・・・。無知は一種の暴力です。私は他の人にもこのことを知ってもらいたいと思いました。

そんな時、私は宮城県高校生国際理解研修会の実行委員になりました。そして「携帯電話についてのワークショップ」を提案し、多くの高校生にこの問題に関心をもってもらう機会を得ることが出来たのです。

ワークショップでは、参加生徒がそれぞれの知恵を振りしぼり、平和的解決方法を探りしました。結論には至らぬものの気づかされる場面も多々あり、個人の思考の限界を痛感するとともに、多くの意見が集まることにより平和的解決への糸口を見出す可能性を感じたのです。国連ミレニアム開発目標にもあるように、世界には全ての国々が共同して取り組むべき課題が山積しています。立場や状況が異なる人々が共にディスカッションを深め多方面から問題を検討していくことが解決への第一歩にもつながるのではないでしょうか。

携帯電話に話を戻すと、現実的には高度情報社会と呼ばれる今、私達がこれ程便利なものを手離すことはとうてい不可能でしょう。しかし私達にも出来ることは沢山あります。まずは知ること、そして伝えあうこと。高校生ならではのネットワークやパートナーシップを構築し、国際理解をテーマとした校内外の活動を機能させることも出来ます。また日常生活においてはリサイクルをすることや、ひとつのモノを長く大切に使うことにより資源の浪費を抑えることが出来ます。たとえ小さな事でも行動に移すこと。その小さなアクションの積み重ねが誰かの笑顔につながると、私は信じています。

ひとつの便利と百千の不幸。毎日を共にすごす携帯電話をはじめとする便利なものにはまだ計り知れない世界への扉がいくつもあります。

科学技術の恩恵だけを受けてそれを一方的に利用するのか、グローバルな視野で行動していくのかは、私達次第なのです。

「地球環境と国連」

財団法人日本国際連合協会会長賞
沖縄県 沖縄県立糸満高等学校 3年
森田 麻優里

「日本一汚い川は報得川」と、新聞報道を知ったのは高校1年生の時でした。身近な川が「日本一汚い川」に選ばれた事にとても驚きました。そんな時に、地元のFM局で「川を蘇生させるプロジェクト」に参加する事になりました。

報得川の実態を調査する為、NPOや南部保健所の方と共に川の水質検査を行いました。バケツですくい上げた水を試薬で色の変化を調べて、水の汚れを記録しました。農業地帯からは、家畜のふん尿や農薬が川に流れ込み、川を汚しています。下流では生活用水が大量に流れ、岸辺には市場からのポリ袋、古い体育着、果ては腐った魚などが乱雑に捨てられていました。

ちょうどその頃、テレビ番組制作の為にカヌー部を撮影していました。女子カヌー部の選手は、川で舟が転覆するのが一番嫌だと話していました。カヌー競技が行われている報得川の水をよく見ると、どろりとした緑色で腐った臭いがするのです。

ラジオ番組では近くの町の人達の話しから、昔は子供達が川遊びをし、魚やウナギがたくさんとれた。また、方言で「カマロウ」と呼ばれる河童が住んでいたという昔話も聞きました。川が今のように汚れたのは戦後の復興が進み、河川が築かれるようになってからとの事でした。放送部では校内でアンケートを取りました。新聞報道で、汚い川日本一という事については30%の人達しか知りませんでした。川を綺麗にする為にどうすれば良いのかという質問に対しては、具体的に活動するという返事は返ってきませんでした。

「蘇生プロジェクト」に参加する事で、私は周りの環境について問題意識を持つようになりました。私の住んでいる沖縄には、環境について多くの問題が起こっている事に気づきました。

中部に比謝川が流れています。この川は大変汚れていましたが、地域の一人一人の意識と自然保護団体の活動により川が生き返りました。また、那覇を流れている国場川も以前は側を通るだけでくさい臭いがしたそうです。今はラムサール条約に登録され、川の干潟にはマングローブが繁り渡り鳥の中継地になっています。今ではハーリー競争も復活されました。

沖縄の海。青い空に白い砂浜の美しい海岸は私達の宝物です。座間味のサンゴ礁が海水の温暖化で白化し、壊滅的状態になりました。沖縄の先人達の「海は宝だ。」という思いをダイバー達が受け継ぎ、オニヒトデの駆除やサンゴの植え付けを行い、現在はラムサール条約に登録されています。

人と自然が共存し、豊かな未来を築き生きていく。周囲を海に囲まれた沖縄では、昔からニライカナイ、南の海の方から幸せが訪れるといわれています。現在、中部にある泡瀬干潟が埋め立てられようとしています。シオマネキ、ミナミトビハゼが飛び回る姿が消えてしまうかもしれません。一度失われた干潟は再生できません。

海と共に繁栄してきた沖縄。また、人間と環境を考えると、日本の中で沖縄県の姿は本当に健全なのでしょうか。小さな島に75%も占める基地の多さ。普天間の町は米軍基地と隣り合わせで、低空飛行のヘリコプター爆音の中で高校生は勉強しています。金網の壁があれば安全なのでしょうか。また、北部の海ではジュゴンも住み、海からの恵みで生活してきた辺野古の人々の美しい海が基地建設の為に消えようとしています。

現在、国際的課題である地球温暖化で起こる食糧問題や災害への取り組みを、国連では呼びかけています。先月、国連気候変動サミットで総理大臣がCO₂を25%削減すると提言して、各国の賛同を得ました。国連で日本は地球環境問題についてエコ対策で先進的提案を行い、リーダー的活動を行うべきではないでしょうか。自然と人間が共存し、豊かな未来を築く為にも私達若者は、身近の環境の変化に敏感に反応し行動しなければなりません。青い地球を砂漠の惑星しない為にも。今私達若者に求められている事は、一人一人が自覚し、身近な事から即行動する事だと私は思います。