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第71回 国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール

- 第71回(2024年度) 受賞者発表 -

「2024年度・第71回 国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール」では、全国から 274作品の応募があり、予選を通過した 27作品の中から受賞作品が決定しました。

外務大臣賞

九州文化学園高等学校 ブラッドリー 美碧 スカイ さん

世界の平和と安全を守るために国連がいま果たすべき役割とは何か。 - 戦場から来た友へ -

法務大臣賞

山梨英和高等学校 野中 真里 さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。 - 無国籍の壁 -

文部科学大臣賞

灘高等学校 小森 龍太郎 さん

持続可能な開発目標(SDGs)に続く次の目標を掲げるとしたらどんな項目を入れるべきと考えるか。

公益財団法人日本国際連合協会会長賞

新潟県立新潟高等学校 高橋 くらら さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。 - その手をつかむ -

全国人権擁護委員連合会会長賞

東京朝鮮中高級学校 康 英淑 さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。 - 歌と踊りで心を繋ごう -

公益社団法人日本ユネスコ協会連盟会長賞

日本女子大学附属高等学校 伊東 千織 さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。

日本ユネスコ国内委員会会長賞

京都教育大学附属高等学校 三浦 すみれ さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。

公益財団法人安達峰一郎記念財団理事長賞

岩手県立盛岡第一高等学校 松原 理桜 さん

持続可能な開発目標(SDGs)に続く次の目標を掲げるとしたらどんな項目を入れるべきと考えるか。 - 科学研究における国家間の壁をなくそう -

NHK会長賞

東京都立国際高等学校 宮川 美邑 さん

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。

国際連合広報センター賞

沖縄県立八重山農林高等学校 高西 萌奈メイ さん

世界の平和と安全を守るために国連がいま果たすべき役割とは何か。

- 特賞入賞作品紹介 -

世界の平和と安全を守るために国連がいま果たすべき役割とは何か。 - 戦場から来た友へ -

外務大臣賞
長崎県 九州文化学園高等学校 3年 ブラッドリー 美碧 スカイ

「気になるけど、見てないんだ。」これは、ウクライナから避難してきたクラスメイトのアレックス君に、「ウクライナの状況はいつもネットやSNSを見ているの?」と聞いた時の返事です。現地の家族のことは心配だけれど、ネット上の情報を見ると堪らなく怖いそうです。そして私に一枚の画像を見せてくれました。そこにはミサイルで破壊された建物が写っていました。「いつもここで遊んでいたんだ。日本に来なかったら、僕は死んでいた。だから怖くてネットはチェックできない。」そう呟きました。学校ではクラスメイトと元気に楽しく過ごしている彼ですが、今この瞬間でも心は戦場にあるのです。一瞬曇った表情に現実の戦争の恐怖を感じました。

そんな彼の様子を見て、誰もが否定する戦争が現実に起きている矛盾に違和感を覚え、調べてみました。アンヌ・モレリの『戦争プロパガンダ⒑の法則』という本の中に、戦争は一部の権力者の思惑や都合で起きるとありました。そして、言葉巧みに国民のアイデンティティを利用して誘導し、自らの主張を正当化していくことも記されていました。

このアイデンティティと戦争について、私にははっきりと言えることがあります。私は、アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフで、私の中には二つのアイデンティティが存在しています。日本の友人といる時は「ねえ、英語喋ってみて!」と言われるし、アメリカ人といる時は逆のことを言われたりして、日常生活ではどっち付かずの立場に多少苦労する一面もあります。しかし、この二つのアイデンティティのおかげで、もし仮に第二次世界大戦の時のような日米両国が戦争状態になったとしても、私はどちらの国の主張も、一方に偏ることなく聴くことができ、決して左右されることはありません。そしてそれ以上に、もっと大切なものを見出すことができます。

それは命の大切さと平和の尊さです。特に私は、長崎の高校生として、原爆により多くの命が失われたことや今なお後遺症で苦しむ人々がいるという事実、そして、戦争の恐怖から逃れられないアレックス君の姿を見ていると、戦争に強い憤りを感じます。命の大切さ、平和と安全を守り維持することこそが、何よりも大切なことではないでしょうか。

ここで忘れてはならないのは、この世界の平和と安全を守るという思いは、国連の設立の理念だということです。しかし、残念なことに現実の世界では戦争は起き、今現在も継続中です。このことについては、国連が機能不全に陥っているという批判の声も上がっています。

そこで本題です。国連が今果たすべき役割は何かと言えば、多くの人は、国連を改革し、継続中の戦争を止めさせるべきだと主張すると思います。しかし私はその考えに疑問があります。戦争の停止・終結には賛成ですが、そのことだけに注目しての急な改革は、どこかに歪みを生みかねません。かつて国際連盟が、脱退国が出て解体してしまったように、国連自体の崩壊に繋がるかも知れないのです。

そこで私は、今、国連が果たす役割は、全世界に向けて、国連の『国際の平和及び安全を維持する』という理念を改めて訴えることだと考えています。それでは今までと変わらないと言われてしまうとは思いますが、実際の国連は変わりつつあると私は思います。その例として2022年の国連総会での「ウクライナ侵攻におけるロシア軍即時撤退を求める決議」や、昨年の「パレスチナ・イスラエル戦争の人道的休止と回廊の設置」の安保理決議など、一部の国に忖度しない、国連本来の理念に適う動きも出てきています。

そしてもう一つ、大切なのは、私たちが国やそれぞれのアイデンティティをこえて、この国連の理念を支える意識を強く持ち続けることです。一見遠回りに感じますが、これが戦場から来た友へ、一日でも早く、戦場ではなくなった故郷へ帰れるエールになると、私は信じています。

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。 - 無国籍の壁 -

法務大臣賞
山梨県 山梨英和高等学校 2年 野中 真里

世界にはどこの国にも属さない、国籍を持たない、「無国籍」の人がいることを皆さんは知っていますか。私はタイ人の父と、日本人の母のもとに生まれた「ダブル」、二重国籍者です。私には「タイ国籍」と「日本国籍」があり、小学校低学年まではタイに住んでいました。両親は幼い時から言語だけではなく、両国のアイデンティティ、自分のルーツをしっかり持たせたいと考え、様々な伝統行事に私を参加させてくれました。これがどれだけ恵まれていたことか、私はこの夏知りました。

私は、ある財団を通じて、2年前からタイの農村部に住むゲッサラーちゃんという中学3年生の少女に奨学金を贈り続けています。タイは中学までは義務教育なので、ゲッサラーちゃんは無償で教育を受けることができますが、家が貧しくて学用品が買えず、支援を必要としていました。私はこのような支援活動をする中で、新たに山岳民族の子供達を支援している団体と出会い、この夏彼らが暮らすチェンライ県に教育支援ボランティアとして行くことにしました。

そこで私はこの施設で暮らす一人のカレン族の少女と出会いました。

彼女は、「本当は私、この春日本に行く予定だったの。でも国籍がないからパスポートが作れず、日本に行く事が出来なかった。日本に行く事は私の夢だったのに。」と話してくれました。私は初め何を言っているのか全く理解できませんでした。国籍がないとは一体どういうことか。そして国籍がないから夢を叶えることができない、そんなことが実際にあるのだろうか。

私は帰国後、「無国籍」の問題について調べました。

UNHCRの報告によると、世界には440万人以上の無国籍者がいるとされ、タイには山岳民族だけでなく、南部の海上を生活拠点とするモーケン族など、約50万人以上の無国籍者がいると言われています。国境は政府が勝手に決めた境界であり、実際に地上や海上に線が引いてあるわけではないので、先祖代々の土地で生活している原住民族には、国とか国境という概念などないのです。

1974年、タイ政府は国内に住む無国籍者に国籍を与える閣議決定をしました。しかし国籍を取得するためには、出生証明書などの書類を揃えることが困難であることに加え、居住する山岳地帯から役所に行くための交通手段の確保や、それにかかる費用が大きな壁となり国籍の取得は進みませんでした。

では国籍がないと何が困るのか。まず「社会的な補償が受けられない」ということです。十分な教育や、医療を受けることもできません。さらに「住むところもない」のです。今までのように移動しながら生活をしたり、自由に家を建てることも認められません。決められた範囲内での定住しか認められず、自由に県外に行く権利すらありません。そして一番大変なことは「自分の存在自体が法的に認知されていない」ということです。存在しているのか、していないのか誰にも知られない「透明人間」になってしまうのです。

SDGs第16のターゲット9には「2030年までに、出生登録をふくめ、すべての人が、法的な身分証明を持てるようにする」と掲げられています。今こそ私たちは、無国籍者の問題に真剣に取り組むべきだと考えます。

様々な分野での「ボーダーレス、ダイバーシティ」が叫ばれる今、人の手によって勝手に引かれた「ボーダー(国境)」によって取り残され、苦しみ、「基本的権利を奪われている人がいる」ということを知らなければなりません。「無国籍」は「ダイバーシティ」ではありません。ダイバーシティとは、基本的な権利が保障されていることが前提になければならないのです。

私は将来、国連やJICAのような国際支援機関で働き、出生で無国籍になってしまう子供や、民族の風習のために無国籍になってしまう人たちのために、「国籍」あるいは「法的な身分証明」が彼らにとって分かりやすく取得できる法整備を各国政府に働きかけていきたいと考えています。

「法的な身分証明がある」ということは自身のアイデンティティやルーツに自信を持つことができ、「夢を持つこと」が許されるということです。私は「これから生まれてくる全ての子供たちが、自分の存在を政府などの公的機関に認められ、自由に将来を思い描くことができる世界」。これが、これからあるべき世界の姿だと考えます。

「国籍」は、いわば「どこでもドア」です。私は今、それが2つもある。だからダブルの私には私にしかできないこと、やるべきことがあると考えています。「ここで皆さんに訴えかける」、これが私が始める第一歩です。

世界中の全ての子供たちが「I have a dream!」と声高らかに、誇らし気に自分の夢を語れる、そんな魅力あふれる世界にしていくことが、これから大人になっていく私たちの重要な役割ではないでしょうか。

持続可能な開発目標(SDGs)に続く次の目標を掲げるとしたらどんな項目を入れるべきと考えるか。

文部科学大臣賞
兵庫県 灘高等学校 1年 小森 龍太郎

僕は将棋が大好きです。小学生の時に足の病気で長期間の入院を余儀なくさせられました。そんな入院していた時に将棋を覚え、お見舞いに来てくれる祖父と指すことが僕の生きがいでした。もちろん、退院してからもずっと続けました。将棋盤を挟めば、僕が車いすに乗っていることも些細なことになったからです。相手がどんな人でも関係なく真剣勝負ができる、そんな将棋が大好きでした。

しかし、オンラインツールの普及やAIの台頭によって、対面で指す機会はどんどん減りました。一人で研究していた方が強くなれるからです。僕は家で、AIのおかげで強くなり、全国優勝することもできました。だけど、かつて通っていた道場の客足は遠のいて、閉鎖してしまいました。僕が大好きだった、誰もが対等に真剣勝負をするあの場所は消えてしまったのです。

デジタル技術の発展は、僕を強くした。そして、結果的に僕の大好きな場所をなくしてしまった。道場が魅力ある場所であり続けるためには、どうすればよかったのか。この問いへの答えを求めて、現在僕はデジタル技術が社会に与える影響について研究しています。

さて、少し別の方向から見てみましょうか。

国連がSDGsを定めて10年、デジタル技術は、10年前には見えなかった大きな要素です。僕達は急速な変革の時代の中で、デジタル技術の多くの利便性と可能性を享受しています。ですがもちろん、良いところづくしな訳もなく、デジタル技術によって出てきた新たな課題もあります。僕たちはデジタル技術が社会、そして地球全体に与える影響について考える必要があります。

ご参集の皆様。

僕は、SDGsに続く新たな目標、「デジタルと共存した未来へ」を提言します。

美術、文学、音楽や映画など、直近の10年で、僕たちはネットで検索する時代からネットで生成する時代までやってきました。僕の考えるこの目標は次の二十年、さらに進化したデジタル技術と人間が調和した社会を目指すための目標です。プライバシーの侵害、サイバーセキュリティの脅威、国際的デジタル統制、フェイクニュースなど、すでに直面している問題がたくさんありますが、中でも大きな目標として、「デジタル普及」と「テクノロジー倫理」の二つの柱を考えます。

世界のインターネット使用率は67%。まだ世界の三分の一の人がデジタル社会のスタートラインにすら立っていないのです。デジタル普及によって、誰一人取り残さないデジタル社会を実現することを目指します。

そして、テクノロジー倫理は、デジタル世界を人間との共存へ導くレールとなります。このレールがないがためにすでに出てきている課題もあります。例えば、デジタル技術が人間の仕事を奪う、道場のような場所をなくしてしまう、といった事態などに対しても、国際的に議論し、防止するために事前に手を打つべきです。前例がない状況であるからこそ、テクノロジー倫理という新たなガイドラインが必要なのです。

スマホにインターネット、SNS、生成AI・・・。ここ10年のデジタル技術の進歩は、本当に驚異的なスピードです。だけど、僕達はそのスピードについていけているでしょうか。世界はデジタル技術の発展に危機感が足りてないと思います。だからこそ、新たな目標として掲げ、今ある社会問題と同じように僕達一人一人が意識を持つ必要があります。

「デジタルと共存した未来へ」

僕達人類は、未開の地に足を踏み入れています。もちろん、前例なんてないし、険しくて長い道のりです。ですが、大変だからといって避ける訳にはいきません。この目標が、世界の未来への羅針盤になります。これからのデジタル技術の発展を予想し、時間をかけて準備することで、自らが生み出した技術を制御していく必要があります。共存か、依存か。次の二十年、そしてその先が、今この瞬間の、議論と決断にかかっています。

僕は今、関西の学生が50人以上参加する交流会を主催しています。次回で七回目の開催となるこの交流会では、対面で指すことでしか生まれない沢山の笑顔であふれています。AI研究が主流の中でも、人間が直接勝負する空間の魅力は絶対に失われなどしないと、確信しています。

また、あの道場で将棋を指したい。叶うことのないこの想いは、僕の未来への一歩を踏み出す原動力です。未来世代にとって安全で持続可能なデジタル社会にするために、いま、世界が動く時が来ています。

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とはどんなものと考えるか。そのために私たちが優先して取り組むべき課題とは何か。 - その手をつかむ -

公益財団法人日本国際連合協会会長賞
新潟県 新潟県立新潟高等学校 2年 高橋 くらら

私はあの日のことをずっと後悔していた。「死にたい」という彼女の言葉に、どうして何も言えなかったのだろうと。

私にはロシア人の友人がいる。日本に留学していた彼女とは趣味の武道を通じて親しくなり、お互いの共通言語である英語で手探りするように意思疎通することが楽しかった。そんな彼女がある時から笑わなくなった。正確には笑っていても心の中で戦っている、そんな感じだった。しばらくすると彼女が言った「苦しい 死にたい」と。

聞けばロシアがウクライナ侵攻をはじめたことで、ロシア人としてのアイデンティティに対する葛藤が背景にあった。その時の私には咄嗟に彼女を支える言葉が見つからなかった。

私も以前、自分に対しての容赦のない中傷を耳にし、苦しい日々を過ごした経験がある。匿名で無責任に噂が広がる社会に絶望も感じながら、それを否定する手立てもなく、孤独に苦しむしかなかった。だが、悩んでいることを自分の弱さだと思い込み、人に話すこともできず、心は殻に閉じこめられた。そんな暗闇のなかでもがく私に「死」は忍び寄っていたのかもしれない。だから、心の中を告白してくれた彼女の勇気に胸を打たれた。

日本は先進国の中でも、「自死」を選ぶ子供の数が多い。そんな事実を知りたくない人もいるだろう。実感できない人もいるだろう。だが、どうか見てほしい。気づいてほしい。「死」はいつでも身近にあるということを。心が苦しくなり、未来に希望が見えなくなった時、いつ「死」という選択を意識するかは誰にも予測できない。そして今この時も、多くの若者が、小さな子供が助けを求め、絶望し、死を選択している。この現実に目を反らさず受け止めない限り、このまま未来を迎えることなどできない。今を、今すぐ変えなければ。

振り返ると、私が心に苦しみを抱えていた時、緒方貞子さんの「今を生き抜きさえすれば未来は必ず開ける」という言葉に救われた。彼女は難民支援の経験から得た、今を生き抜く力と未来への信念は、どんなに厳しい状況でも希望をもたらすというメッセージとして、私の心に深く響き、暗闇の中にいる私の手をつかみ続けてくれた。今度は私が誰かの手をつかみ、支えたい。

まず私は知識を得るためにサイコロジカル・ファーストエイドについて学んだ。それは国連とWHOが推奨する初期の精神的支援方法だ。ガイドには、介入時の心構えから始まり、異なる文化や宗教に対する理解、言葉の選び方まで細かく説明されている。元々は世界の紛争地域や災害支援のために開発されたものだが、重要なのは「心のケア」を必要とする人々に対して分け隔てなく適用できること。この知識を身につけることで、声を上げられない人々のSOSをキャッチできるかもしれない。

知識は人を変える。以前は人と話すことが苦手だった私が、今では子供食堂や療養施設のボランティアで子供達に勉強を教えている。中には不登校の子供もいるが、けして理由は尋ねない。私もそうだったように、心の殻を破るのは自分自身だから。でも誰かの言葉や行動や理解が、殻を破るきっかけになると信じているから、私はけして諦めずその手をつかむまで寄り添い続けたい。「今を生き抜いてほしい」から。

これから生まれてくる未来世代にとってあるべき世界の姿とは、自ら死を選ぶことのない世界だ。そして全ての人が差別も偏見もなく安全で健康に暮らせる環境が理想である。だが、「死にたい」という苦しみが存在する限り、この問題に真剣に取り組まなければならない。心の苦しみを抱えた際に適切な支援を提供できる社会の整備、また教育や社会制度を通じてサイコロジカル・ファーストエイドなどの精神的支援方法を普及させなければならない。持続可能な開発目標 (SDGs) を意識し、ひとりひとりが具体的な行動を起こすことで、誰もが心から安心できる未来を創り上げることが求められている。

現在、私と彼女は違う国でそれぞれの人生を歩みながら、共に未来への希望を持ち続けている。「死にたい」という告白に何も言えなかったことを後悔する私に彼女が言った。

「あの時、一緒に泣いてくれたから私の今があるんだよ」と。

ずっと、あの日のことを後悔してきたが、彼女の言葉で気がついた。難しいことじゃない、きっと誰にでも誰かを支えることができる。だってあの時、私は確かに彼女の手をつかんでいたのだから。

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