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2023.11.15

2023 年度 日中韓の国連協会長会議
北京 2023 年8月 22-23 日

日本・中国・韓国の三ヵ国の国連協会会長会議が4年ぶりに 2023 年 8 月 21 から 22 日の 2 日間、北京市にある中国国連協会の迎賓館で開催された。そして、「グローバルガバナンスシステムの改革と改善」(Reform and Improvement of the Global Governance System)、「持続可能な開発のための国連 2030 アジェンダ」(UN 2030 Agenda for Sustainable Development)と「文明の多様性」(Diversity of Civilizations)について討論し、その後に、日中・日韓、中韓の二国間の会合を行った。

中国と韓国からは新しい会長が参加し、日本からは明石康日本国際連合副会長が団長として会議に臨んだ。中国の学術専門家が、高度の知識と理解を基に各々の議題について講義をした後に、三ヵ国からの参加者が活発な意見交換を行った。議論は建設的に進められ高度な問題意識が提示しされ政治的な要素も含んだ事柄も冷静に討論され実りの豊富な結果となったと思われる。

開会の辞として、中国国連協会の副会長兼事務局長の胡文禮(HU Wenli)女史が、中国はマルティラテラリズムを尊重してグロ-バルなパートナーシップを推進していくことが重要であると信じていると力説した。そして気候変動などの地球規模や新たな第4次産業革命がもたらす課題に、世界各国が協力を深めていくことが重要であると述べた。日本の明石康団長は、世界が激動し不確実性 が増す時代に突入した感があるが、「平和のための新たなアジェンダ」(New Agenda for Peace)などの意義を説明し、あらゆる難題にも謙虚な態度で臨み、国連憲章に謳われている理念と目的に沿って、三ヵ国が協力していくことが得策であると説いた。韓国国連協会の新たな会長となった鄭英薫(KWAAK Young Hoon)氏は、サンフランシスコで国連が創設された以後、西洋諸国の影響が強かった国際社会が流動的になってきていると指摘した。そして、中国、日本、韓国の経済力を合わせれば世界の3分の1近くになり、この地域の重要性は増しているとの見識を示した。グローバル化が進むなかで、国家が市民のために、持続可能な開発を目指すことが望ましいことであると述べた。

個別のセッションでは副会長兼事務局長の胡文禮(HU Wenli)女史が議長を務め、議事進行は事務局次長の王颖 (Wang Ying)氏が行った。韓国からは鄭英薫(KWAAK Young Hoon)会長のほかに、副会長の申富南(SHIN Boonam)大使, 孫成煥(SON Sunghwan)氏と 朴香顺(PARK Heung Soon) 教授の 3 人が参加した。日本からは明石康副会長と長谷川祐弘理事と共に、新たなメンバーとして国際連合人口基金東京事務所長等を経て、プラン・インターナショナル・ジャパン理事長を務めている、池上清子理事が参加した。

第一セッションでは「グローバルガバナンスシステムの改革と改善」(Reform and Improvement of the Global Governance System)について討論された。中国外交学院の副学長の孫吉胜(Sun Ji Sheng)教授が、1995 年に初めて国連が“Global Governance Report”を発表した後、その概念がどのように注目を浴びて進展していったか説明した。現在の世界情勢を歴史的な進展として捉え、国際社会で何が誰によってどのように統治されるべきかについての規範と規則がグローバルガバナンスにとって重要である点を指摘した。そして、現在、世界は歴史的な岐路に立たされているとの認識を示し、覇権主義、自国優先一国主義など反グローバル主義的な傾向が進んでおり、地域紛争、気候変動、食糧とエネルギーの危機など複数の課題に世界が一団となって取り組めなくなってきている。その結果、不安定、不確実性、予測不可能な状況が増してきている。グローバルサウスと呼ばれる新興市場諸国と多くの発展途上国はそれなりに経済成長を遂げているが、先進国は経済体制の老齢化と人口の少子化などによって、経済成長が鈍化している。このような状況でも国際機関は先進国が支配しており、発展途上国の国際機関での代表権と発言力は不十分である。そして国際社会は、経済、政治要素のみならず、コロナ感染や気候変動などによって不安定な要素が増す中で、グローバルガバナンスシステムが機能しなくなってきている。その一因として、イデオロギー的な要素やトランプ大統領の台頭にともなったアメリカ政策の不安定な状態を指摘し、既存の国際機関が、現在の国際情勢の変化をより適切に反映すべきであるとの見解を示した。

参加者の間での討論では、まずは中国国連協会の事務局長の文禮(HU Wenli)女史と事務局次長の王颖 (Wang Ying)氏もグローバルサウスと呼ばれる新興国が存在感を増している事に触れ、国連安全保障理事会が世界のより多くの国々が代表権を持つような民主的な機関になるべきであると述べた。明石康副会長が、国家と人間社会との関係に触れ、国連でも第 3 のミドルパワー・プラス(Middle Power Plus)の勢力が現実的で実用的な役割を果たせる国々に台頭してきていることの意義を説明した。そして、より公平な社会創りの観点からは、地域内の協力を推進することが結果としてグローバルガバナンスを強化することにつながるとのべ、例えば、ASEAN+3のように、ASEAN10か国に、日中韓の3か国を加えることも継続するべき方策の一つであることが強調された。長谷川祐弘理事は現在の米国と中国の対立が長い歴史の中でくりかえされてきた覇権国家と台頭する新興大国の間でおこるトゥキュディデスの罠にかからないことを願っていると述べた。池上清子理事が国連決議女性と平和・安全保障の関係について、安保理決議 1325 をはじめとする一連の関連決議が採択されてから 30 年になることで、今年から来年は、女性と平和(Women in Peace)をテーマとした議論が国連で進むとの認識を示し情報が共有された。

韓国の鄭英薫(KWAAK Young Hoon)氏が西欧社会の政治文化の支配が弱体化するにしたがって、中国の影響力が増していることは確かであり、中国が新たなグローバルガバナンスの形態を提供する可能性もあると述べた。韓国参加者たちからは、また市民社会の役割に関して、官民連携の中に、市民社会を入れることにより、本来の目的が保障されるのではないか、という意見が述べられた。このセッションでは、グローバルガバナンスの最前線の課題として、深海、宇宙、AI、北極・南極などあることが確認された。そして、国際社会がより安定して進歩していくには、グローバルガバナンスシステムを改善し、より公正かつ公平なものにすることが、安定した国際秩序を達成することにつながる。国連憲章の目的と原則を順守することであるとの認識が共有された。そして、今最も必要なことは、すべての国が真の多国間主義を再確認して実践し、グローバルガバナンスの有効性を高めることであるとの結論に達した。

第二セッションでは、国際開発知識センターの周泰东(ZHOU Taidong)教授が 「持続可能な開発のための国連 2030 アジェンダ」 (UN 2030 Agenda for Sustainable Development)について、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや地域紛争そして気候変動や保護主義などが蔓延した結果、持続可能な開発プロセスが著しく鈍化して、持続可能な開発目標の達成は、危うくなり、国際社会は新たな取り組みを強化しなくはならないとの見解を示した。そして、中国自身の厳しい現状を説明した。中国では、貧困の撲滅や経済成長において著しい成果を遂げ、GDP は18兆ドルを超え、一人当たりの個人所得は 12,700 ドルとなった。一方で、環境汚染や社会格差などの課題も残されていると述べた。とくに環境汚染が深刻な問題となっており、政府は、それを政治的に重要視して、大気汚染、水質汚染、土壌汚染などの対策を強化している。具体的には、石炭火力発電の削減、再生可能エネルギーの導入、自動車排ガス規制の強化などを進めている。そして第 14次5か年計画に基づいて、ソーラーパネルのようにリニューアルエネルギーの拡大が進められ、グリーン革命などが明記されている。これらは、全て人々の生活の質を向上するためのテクノロジーであるが、AI の活用が明示されてもいるとのことである。一方、社会格差が拡大しているという課題を抱えており、教育、医療、年金などの社会保障の充実を図っている。具体的には、義務教育の無償化、医療費の負担軽減、年金の支給額の引き上げなどを進めていると説明された。

周泰东教授のプレゼンテーションの後に胡文禮女史が中国は開かれた包摂的なアプローチをとっており、世界が連結している現実を踏まえて、対話と協力を重んじ、お互いが学びあえる政策をとっていると述べた。また国連の平和維持活動を重んじて積極的に貢献していくと述べた。明石康氏は日本としては、この混迷する世界において、国連憲章に謳われた理念に基づいて国際協力を進めていく方針であると述べ、日中韓の三ヵ国が協力していくことが望まれるとの見解を示した。そして、日本からは、アジアの重要な一地域として、人口減少や高齢化などの人口問題について、共通の課題を抱える3か国が、議論を積み重ねる必要があること、また、そのための枠組みを作っていく必要があることも提案された。

第三セッションでは、上海国際問題研究院世界経済研究所研究員の薛雷(XUE Lei)博士が「文明の多様性」について講義をした。 主な論点は、国連が多様化する世界の現実を反映する概念・アイデアとして、文明の多様性を基本ルールとして、もっと取り上げて活用する必要があるという点であった。これは、中国政府が 2023 年 3 月に提案したグローバルシビリゼーションイニシアティブ(Global Civilization Initiatives:GCI)という概念で、未来共有の世界共同体の発展を促進するために、4 つの主要な柱があると説明した。第 1 には、文明の多様性を認識し尊重する必要があり、中国は、その規模、強さ、発展レベルに関係なく、すべての文明は平等であり、尊重されるべきであると信じている。第 2 には人類の共通の価値観をもっており、平和、発展、公平、正義、民主主義、自由と人権などが人類の共通の価値観として推進されるべきである。人権とは市民権と政治的権利から成り立つが、社会的、文化的そして人間が成長する権利などもあり、一つの権利が優越であるとは言えない。第 3 には各々の文明の伝統を継承し、革新することが現代世界で繁栄し続けるために重要であり、その為に、国連が国際社会での意見交換を可能にするための重要なフォーラムすなわち「コミュニケーションを行う場」を提供しているとのべた。第 4 には相互理解と尊重を促進するために、異なる国や文明間の人的交流と協力が奨励されることが望ましいということである。文明の多様性を理解するには、他人の立場に立って観察し理解することが重要であると説いた。20 世紀には西欧文明がグローバル化するとともに主流化したが、最近は多くの開発途上国でも西欧化した近代化のプロセスを見直す動きも始まっていると指摘した。その上に薛雷氏は GCI はまだ初期段階にあるが、グローバルガバナンスの将来を形作る上で重要な役割を果たす可能性があると説いた。

参加者の討論では、各国間の対話を進めるネットワークの構築が開始しているのは興味深いとの意見が出た一方、中国が多国間主義を装って自国の価値観や利益を促進しようとする試みであると主張する人もいると指摘された。また文明間の上下関係が存在するか、ハンチングトンが唱えた文明間の衝突論など、文明間の対話と国々が依存しあえる多国間の枠組みが重要であるとの認識が深められた。また、中国の人権記録が民主主義や自由など GCI の中核的価値観の一部と矛盾しているとも指摘された。こうした批判にもかかわらず、薛雷氏は GCI は発展途上国の多くの国から歓迎されているとの認識を示した。中国は世界情勢においてより大きな発言力を持ち、自国の文化伝統を促進する機会と捉えており、GCI が今後数年間でどのように進化するかは見通せないが、国が世界文明の未来を形作る上で主導的な役割を果たすことに全力で取り組んでいく意思があると述べた。その自信の強さが感じられた。

最終のセッションで、中国人民外交学会会長も務める王超(WANG Chao)中国国連協会会長がグローバルガバナンスはマルティラテラリズムを通した協力を深め共通する課題に取り組んでいくことが得策だと述べた。特に気候変動、再生可能エネルギーそして人工頭脳(Artificial Intelligence)がもたらす第 4 次産業革命には多国間での協力が不可欠であるとのべた。この問題意識を反映して、中国はグローバル開発イニシアティブ(Global Development Initiatives), グローバルサステイナビリティイニシアティブ(Global Sustainability Initiatives)、そしてグローバルシビリゼーションイニシアティブ(Global Civilization Initiatives)を推進していっていると述べた。

韓国の鄭英薫(KWAAK Young Hoon)氏は、このウクライナ戦争など多くの紛争や出来事で、西欧諸国の指導力と影響力が衰えるにしたがって、西欧文明でない中国、日本と韓国が協力して、世界の将来に向かっての指導力を発揮することが望まれると述べた。明石康氏からは、4 年ぶりに北京で開催された今回の国連協会会長会議では多くの事が学び共有されることがあったと評価した。様々な国連の活動を推進するためにも、3か国の連携の重要性、そしてアジアの一地域の活動としての意義が、再確認されたことは良かったと述べた。

左から韓国国連協会会長の鄭英薫(KWAAK Young Hoon)氏、
中国国連協会会長の王超(WANG Chao)氏、日本国連協会副会長の明石康氏

結論として、今回の日中韓の国連協会の会長会議は、様々な複雑かつ深刻な世界的情勢の下で開催されたが、すべての国が国連憲章の目的と原則を遵守し、地球規模的な問題において国連がより大きな役割を果たすことが出来るために支援すべきであるとの認識が共有されたことは有意義であったといえる。国際社会とグローバルガバナンスシステムの改革と改善を促進すべきであると合意し、SDG2030 のアジェンダの達成度はすべての国で大幅に遅れており、予定通り達成するよう努力すべきであり、あらゆる地域や領域の文明が調和して共存し協力すべきであるという認識が共有できたことは、この会議が成功したと言えよう。 この 10 年間ほど国連協会の会長会議に参加してきて、今回感じられたことは、中国・韓国の国連協会の方々が、明石康副会長にたいして深い尊敬の念を抱いている事であった。また、池上清子理事が、初めての参加にもかかわらず、中国と韓国からの参加者と友好関係を速やかに築き意見交換を深めたことであった。

令和5年11月10日

長谷川祐弘
日本国連協会
学術交流担当理事

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