第12回日中韓ユースフォーラム報告書
(金浦空港に到着した日本団)
<開会式>
猛暑に見舞われる中行われた第12回日中韓ユースフォーラムは、韓国の首都・ソウルで行われた。開会式は、各国の参加者が北京に到着した8月19日にソウルオリンピックパークテルのベルリンホールにて執り行われ、各国の参加者が集いました。
式典は、各国の代表によるスピーチから始まりました。最初に登壇したのは韓国国連の郭英薰会長で、日本国連の明石康事務次長にマイクを手渡し、日中韓三国間の相互尊重の姿勢を示すことで、参加者の緊張が和らいだように感じました。
続いて、中国国連協会の副会長兼事務次長である胡文丽氏が挨拶を行いました。彼女は韓国の運営スタッフに対する感謝の意を表し、学生同士の議論から生まれる新たなシナジーに対する期待を述べました。この発言は、フォーラム準備に尽力した韓国側の運営局への感謝を参加者に再認識させるものでした。
最後に再登壇した郭英薰会長は、事前に国連協会三か国間で協議された文書に基づき、日中韓の協力の重要性について強調しました。歴史的に複雑な関係を持つ三国ですが、友好的な交流と協働によって未来を創造することの重要性を訴え、次世代を担うユースに向けてメッセージを送りました。この言葉により、参加者の緊張感が和らぎ、フォーラムでの積極的な交流への意欲が高まり、国の代表としての責任感が強まりました。
開会式の後、参加者のアイスブレイクとして韓国側が準備したビンゴイベントが開催されました。このイベントでは、韓国、中国、日本の参加者が混成して10チームに分かれ、協力してビンゴのマスをできるだけ多く埋めることを競いました。優勝チームには韓国側から景品が贈られました。イベント中、チーム内の韓国メンバーが司会進行を翻訳しながら進行し、ビンゴを埋めるためのミニゲームには各国に関するクイズや体を動かすゲームが含まれていました。これにより、チーム間の協力が促進され、多くの参加者がイベントを楽しむことができました。
飛行機での移動や開会式の疲れからか、イベント後には自室に戻って休息を取る学生や、フォーラム本番に向けて準備を進める学生も多く見受けられましたが、全体としてフォーラムに対する高揚感と期待感が漂っていました。フォーラムの成功に向けた期待が一段と高まる一日でした。
ここ数年の国際情勢の変動を踏まえ、開会式での一つ一つの言葉は、私たち次世代が担うべき重要な役割を強調し、フォーラムの意義を改めて認識させるものでした。このような貴重な機会を韓国・ソウルで開催してくださった国連協会に、心より感謝申し上げます。
(岡本 梨緒)
(アイス・ブレーキングの様子)
<セッション1>
Session 1では少子高齢化社会について発表と議論が行われた。
韓国の代表者は、4th Basic Planに基づいた政策の展開を基盤とし、高齢者や若者、社会の全年代層が交わる社会を作る必要性などを、アメリカのオハイオ州で行われている全年代層が関わる学校教育を紹介しながら訴えていた。また、Basic Planや様々な政府内で打ち出された少子高齢化対策に向けた計画が実行されないことを指摘し、その根本には政権がすぐ変わってしまうという課題を挙げていた。そして、効果的な少子高齢化社会対策のために、中国と日本が行なっている優れた政策を紹介し、それを自国でも取り入れるという提案を発表で紹介していた。
中国の代表者たちは、自国で実際に行われている政府から投資を受け、若年層が都会から里帰りをし、故郷で起業の支援を受けることのできる政策について紹介した。実際その政策が功を奏しており、大学の勉学のために中国の都市部に移住した若年層が、卒業後に過疎化している故郷で働くために、帰郷することが増えているデータも紹介された。また、ジェンダー規範を問題視し、特に女性の積極的な社会参画を阻むような考え方や家庭内での役割などが指摘されていた。国の政策に、ジェンダー規範の考え方を基礎付けたものを継続して立案していくことの重要性を訴えていた。
日本の代表は、日本政府が、少子高齢化問題が顕著になった90年代から行われてきた様々な政策を紹介しつつ、それでもなお、少子高齢化社会への傾向が止まられなかった考察を紹介し、日本社会政界・国民の意識、そして日本文化や価値観を少しずつ変える必要があると述べた。その中には、教育や日常生活の様々な年代層の人達との交流、価値観の共有をする対話が大きな役割をなすと指摘した。
前日の夜まで、お互いの発表の練習を聞き合いアドバイスをしたり、新しい情報を更新し、最後まで協力し合いながら作業をした。ユース・フォーラムの何週間も前から、私たちが伝えたいメッセージの根幹が、最終的な主張に反映されるように、ZOOMでのミーティングで話し合った。対話を通じた双方の深い理解を持ち、協力することによって有意義な時間を持てたと考えている。小さな協力の積み重ねを、より多くの人や集団と、より広い範囲で続けることによって、多くの人たちのためになるものが作られていくと感じた。このフォーラムにあった小さな協力の中に、未来の希望があるだろう。
(笹岡 みちる)
(セッション1の様子)
<セッション2>
Session 2では薬物問題(Drug Addiction and Drug Trafficking)についての話し合いが行われた。このトピックは、犯罪と結び付けられることが多い一方で、近年は複数国でマリファナなど特定の薬物が合法化されるなど変化が激しいことから、薬物問題に対する正しい知識を身に付け、アップデートしていくことが重要だ。また、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が薬物規制や薬物犯罪対応を担うなど国際的に深い話し合いが求められる分野とも言える。
セッションのプレゼンテーションで日本代表は、日本が世界的薬物犯罪の割合が低いことを挙げつつ、国際化や技術の進歩によって薬物が流入し易くなっている現状への危機感を訴えた。また、薬物使用の社会的スティグマの払拭、リハビリ施設の地域格差改善、健康被害の3点から薬物規制の重要性を強調した。
一方で韓国代表は、UNODCの体制に触れながらアジア全体で薬物の流通を食い止めるために、日中韓が率先的に協⼒する必要があることを主張した。加えて、韓国を含め3カ国に共通して若者を中心とした薬物の使用が増えていることから国家レベルの規制の必要性があることの根拠を示した。そして、中国代表は中国がこれまでどのように⿇薬密売と向き合っていたのかを説明した。特に、UNODCの条約が中国の法律にどのように関わっているのか詳しく述べた。さらに、若者の薬物問題に争うために学校でプログラムが実施されていることも挙げられた。
ディスカションでは日本へ、薬物使用への権利や法的規制に対する質問が挙がった。これに対して、治療等の目的を除き薬物は絶対に規制されるべきであること、そして日本で薬物犯罪に死刑が適応されていないことを伝えた。
続けて、日本代表のdiscussants は日本では薬物使用者に対する暗いイメージが確立されて社会的に隔絶されている問題点と、教育を通して若者が薬物に関する正しい知識を身につける重要性を挙げた。また、法的システムと薬物規制の関係性や包括的に薬物の情報を得る方法に関する質問を投げかけた。また、質疑応答でSNSなどの民間運営団体がどのように薬物規制すべきかという質問に対し、日本代表は日本で用いられるSNSのプラットフォームが米国で運営されていることから、規制が困難である問題点を述べた。一方で、国営メディアが積極的に正しい情報を伝えることの必要性が強調された。また、医療用麻薬による潜在的な犯罪のリスクに対して、日本は医療現場で厳重に管理されていることから犯罪のリスクが低く、医療麻薬の使用は尊重されるべきだと述べた。
このセッションを通し、3国間で薬物規制の重要性を再認識することができた。また、各国の医療麻薬や法的規制に対する考え方に違いがあることが明らからになった。しかし、薬物の使用を強く反対するという共通の意見を持っていることを踏まえて、日中韓で薬物根絶のために協力できるポテンシャルがあることもわかった。
(大橋 莉央)
(セッション2のプレゼンター:小倉 裕太 氏【左】と 大橋 莉央 氏【右】)
<セッション3>
セッション3では、Plastic Pollution and New Campaign Ideas (プラスチック汚染問題と新たな施策の提案)をテーマに発表と議論を行った。プラスチック汚染は海洋生物、生態系、そして人間の健康に深刻な影響を及ぼす環境問題であり、過剰な使い捨てプラスチックの使用や生産、廃棄物処理の問題、リサイクルインフラの不足など、原因は多岐にわたる。このような背景を受けて、世界各国でプラスチック汚染の根絶に向けた取り組みが進められている。代表的な取り組みとして、2022年3月に第5回国連環境総会で採択された「Global Plastic Treaty(世界プラスチック条約)」が挙げられる。この国際的な法的拘束力を持つ条約は、プラスチック業界の各国協力とイノベーションを促進し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現を目指している。
本フォーラムでは、このようなプラスチック汚染の背景と現状の取り組みを踏まえ、日本のユースならではの視点からプラスチック汚染に対する新たな施策を3つ提案した。1つ目が、アプリのポイント制度を活用したマイバッグ推進運動である。エコバッグを持参するごとにポイントがたまり、これを各国の電子マネー(PayPay, AliPayなど)に換算することで、消費者にポジティブなインセンティブを提供し、プラスチック袋の使用を削減することを目的としている。2つ目が、プラスチック汚染に関する知識や情報の共有、技術協力を推進するための日中韓共同研究機関を設立することだ。3つ目が、使い捨てプラスチックゼロ週間の開催である。学校や企業で一定期間、使い捨てプラスチックの使用を禁止することで、ユースを含め様々な世代の消費者がプラスチック汚染問題をより身近に感じる機会の提供を目的としている。
韓国と中国は、新たな施策案としてプラスティックフリーイニシアティブの設立、ユースアンバサダープログラムの開催、グリーンビジネス証の導入、若い世代がプラスチックに関する知識や技術を交換できるプラットフォームの設置などを挙げた。事前のリサーチおよび当日の議論を通じて、私たちが学んだことは主に2つある。1つ目が、プラスチック汚染問題の難しさである。現在、日本、中国、韓国はいずれも経済がプラスチック製品やその生産に依存しているため、経済的利益と産業依存を考慮するとプラスチックの生産にどこまで規制をかけるべきかは非常に難しい問題である。2つ目が、プラスチック汚染問題に対する様々なアプローチとその重要性である。プラスチック削減には、プラスチックの利便性や長所を上回るポジティブインセンティブの導入や代替製品の開発が必要だ。そのためには、各国の技術協力に加え、政府、民間企業、教育機関、消費者など、さまざまなステークホルダーの協力が不可欠だ。私たち若い世代は、プラスチック削減において重要な役割を果たしている。今後は、ユースならではの柔軟で独創的な発想を尊重し、世代を超えた意見交換の場を設ける政府の役割が一層重要になると考える。来年のJCKは日本が主催となるため、プラスチック廃棄量削減に向けて、JCKコミュニティとしても積極的に行動し、プラスチック汚染問題に関する議論の場を引き続き提供していきたい。
(中村 未来)
(セッション3のディスカサント:中村 未来 氏)
<セッション4>
国連安全保障理事会(以下安保理)の現状及び具体的な改革案において、これまで異なるアプローチを見せてきた3カ国の代表団が今回熱い議論を交わした。安保理のこれまでの役割や成果を再評価する過程で、その機能をいかに見直すことができるか各国の主張を伺う貴重な機会となった。本報告書では、セッションでの主要な議論内容と各代表団の立場を詳述し、今後の展望についても考察する。
セッションにおいては各国プレゼンターとして各国の主張を行い、その後各国ディスカッサントがプレゼンターと質疑を行った。本報告書においても、本形式に沿ってセッションのおさらいを行う。
韓国代表団の主な主張
安保理が現在直面している主な課題として、「効率性と有効性の低下」「拒否権の乱用」「メンバーの代表性不足」の三つを紹介した。特に、非常任理事国の数を増やすことによって、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ・カリブ海地域の声をもっと反映させるべきであると主張した。具体的にはアフリカから2席、アジア太平洋地域から2席、ラテンアメリカ・カリブ海地域から1席、その他の地域から1席、総じて現在の15議席から21議席の拡大を提言した。この提案は、これらの地域が国際社会で重要な役割を果たしているにもかかわらず、現在の安保理においては十分に代表されていないという認識に基づいている。また、常任理事国の拒否権行使に対する説明責任を求める「拒否権責任決議」の実効性を強調すると同時に、国連総会の役割強化を強く求め、拒否権乱用の抑制と安保理改革の実現を目指す必要があると述べた。これは、拒否権の行使が透明で説明責任を伴うものであるべきとの考えからである。
中国代表団の主な主張
安保理の改革において「大国間の協調とバランス」を維持することが最も重要であると強調した。現在の常任理事国の構成は、世界の力関係を反映しており、このバランスを崩すことは国際社会の安定を損なう可能性があると強調した。特に、常任理事国の数を増やすことは、これらの国々の間で新たな対立を生む可能性があるため、慎重であるべきだと主張した。一方で、非常任理事国の数を増やし、特に発展途上国を含む小規模・中規模の国々の代表性を高めることには賛成しており、より多くの国が意思決定に参加できるよう段階的かつ秩序ある改革を求めた。国連設立当初の安保理メンバーは11であり、現在加盟国が193カ国に増加したにもかかわらず、安保理メンバーは15に留まっている。これが代表性の問題を引き起こしていると訴えた。また一部学者が主張する安保理が国連加盟国の10~15%を占めるべきであるという数字を例として取り上げた。拒否権については、国際社会の平和と安定を保つためには必要な制度であり、安易に変更するべきではないとの立場を示した。
日本代表団の主な主張
安保理の正当性と代表性を高めるために具体的な改革提案を行った。
第一の提案は、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドに関して、国連憲章を改正し、拒否権の行使を制限することである。具体的には、これらの案件は安保理で3分の2の投票で決定され、拒否権は適用されない。その後、国際司法裁判所(ICJ)が審査する。この改正により、人道的危機に迅速に対応しつつ、決定の誤用を防ぐことが期待される。この提案は、人命の保護を最優先とする考え方に基づいており、歴史的な教訓を踏まえて、国家の利益よりも人命を重視する必要があると強調した。
第二の提案は、安保理に5つの新しい非常任理事国の席を追加することである。常任理事国の数を増やすことには慎重な姿勢を示し、むしろ非常任理事国の数を増やして代表性を高めることを支持した。具体的には、アジア太平洋地域とアフリカにそれぞれ2席、ラテンアメリカおよびカリブ海地域に1席を設ける。これにより、安保理の席数は20となり、各地域の代表性が改善される。具体的な配分は、アフリカとアジア太平洋が各5席、東ヨーロッパが2席、ラテンアメリカおよびカリブ海が3席、西ヨーロッパおよびその他が5席となる。常任理事国の数を維持し、非常任理事国の任期を2年とする現行の制度を維持することで、安保理の機能性を保ちながら代表性を向上させることを目指している。これは、国際社会全体の利益を優先するアプローチであり、特定の国の利益に偏らない姿勢を示す。
ディスカッション
各国が合意できる共通認識として、中国、日本の3カ国が、国連安保理の改革の必要性についてお互いが強い意志を持っていることが改めて確認された。特に、代表性の拡大と効率性の向上が重要である点で一致した。各国質問者の鋭い視点による追求により、これまで行われた主張の整理、そして各国の新たな主張が明らかとなった。以下にてその内容をおさらいする。
韓国代表団は、非常任理事国の数の増加だけでは問題解決にならないと主張した。具体的な議席数の決定は時期尚早であり、むしろ現実的かつ具体的な変化に焦点を当てるべきだとした。また非常任理事国間の情報共有と協力を強化することが、意思決定の効率を高めるために重要だとしている。非常任理事国が定期的に会議を開催し、情報やリソースを共有することで、安保理の統一されたアプローチを促進できることも提言した。一方で、国連総会の役割を強化し、総会を通じて安全保障理事会の透明性と説明責任を高めることが必要であることも繰り返し強調した。総じて、現行の枠組みを維持しながら、実行可能な改善を追求することが改革の鍵であると強調した。
日本代表団は、特に拒否権の問題が国連の代表性や正当性に重大な影響を与えていると改めて繰り返し強調した。1965年の安保理拡大の前例が示すように、憲章改正は困難だが不可能ではないとする中で、変化する世界情勢に合わせて国連システムの適応が不可欠であると訴える。また提案の中では、ICJ(国際司法裁判所)が人道危機における拒否権の使用を評価し、その公平性を確保する役割を果たすべきだと改めて示した。具体的には、安保理内で3分の2の投票により拒否権の行使が制限される状況を定め、その後ICJがその決定を公平に評価するプロセスを再三提案している。拒否権の乱用を防ぎ、公平性と透明性を確保することで、国際平和と安全を守るための安保理改革を進めるべきだと結論づけた。
中国代表団は、国連安全保障理事会において、拒否権の重要性を改めて強調した。冷戦後、民族間の紛争やテロ攻撃が増加している一方で、安保理の主要な目的は依然として大国間の戦争を防ぐことであると主張する。拒否権は、大国間の対立を避けるための効果的な緩衝材であり、常任理事国が軍事行動に強制的に参加させられることを防ぐ唯一の手段であるとした。これにより、一国の反対を無視して行動を強制することで生じる可能性がある国連からの離脱や新たな大戦争のリスクを回避できるとする。拒否権を制限することが人権保護に寄与するかもしれないが、それが逆に人類を大規模な惨事にさらす可能性もあると警告している。さらに、拒否権がなければ、国連は多数派の政治的アジェンダに影響され、不安定な機関となる可能性が高いとも述べている。安保理の改革は、単に拒否権を廃止するのではなく、バランスを保ちながら行うべきであり、世界平和と安全を確保するために、世界銀行やIMF、WTOなど他の国際機関の改革と並行して進める必要があると強調した。
今回のセッションの総括として、東アジアの主要国日中韓が協力して本題に取り組む重要性を再確認する場となった。各国が異なる視点と提案を持ちながらも、共通の目標である国際平和と安全の確保に向けて協力することの重要性が強調された。この報告書は、国連安全保障理事会の改革に関する日中韓三国の立場と意見をまとめたものである。各国の代表が示した異なる提案と視点は、今後の国連改革の議論において重要な参考材料となるであろう。これらの提案がどのように具体化され、実現されるのか、担うのは私たちの世代である。今後も引き続き、国際的な対話と協力を通じて、持続可能な平和を実現するための取り組みを進めていくことが私たちの人生を捧げてのミッションである。
(福元 崇晃)
(セッション4の様子)
<ディベート>
AIとデジタル時代が人類の救世主かどうかについてのディベートでは、AIとデジタル技術がもたらす利点とリスクについて多角的な議論が展開されました。肯定側は、AIとデジタル技術が日常生活を大幅に改善し、効率を高める可能性を強調しました。具体的には、スマートホーム技術や医療分野でのAIの応用などを例に挙げ、これらの技術が人々の生活の質を向上させると主張しました。スマートホーム技術による快適な生活環境の実現や、AIを活用した医療診断の精度向上といった利点が、より健康で効率的な社会を構築すると説きました。
一方、反対側はAIとデジタル技術に対する過度な依存が、社会に新たな課題を生む可能性があると指摘しました。まず、デジタル格差の拡大により、技術の恩恵を享受できる人々とそうでない人々との間で不平等が深まる懸念があるとしました。また、AIの普及が進むことで、職業の喪失が避けられず、多くの労働者が仕事を失うリスクがあることを強調しました。さらに、AIに対する過度な依存が、批判的思考の低下を招き、誤情報の拡散や社会的な分断を引き起こす可能性も議論されました。最終的に、このディベートは、AIとデジタル技術を推進するにあたって、バランスの取れたアプローチと各国の協力が不可欠であることを強調し、技術の倫理的なガバナンスの必要性を示しました。
次に、電気自動車(EV)に関するディベートでは、EVが真に環境に優しい「グリーンテクノロジー」であるかどうかについて議論されました。肯定側は、EVが従来の内燃機関車に比べて排出ガスが少なく、エネルギー効率も高いため、地球温暖化対策として重要な役割を果たすと主張しました。特に、再生可能エネルギーからの電力供給を前提とした場合、EVは温室効果ガスの削減に大きく貢献すると説きました。さらに、電気自動車が都市部の大気汚染を軽減し、公共の健康を守る上で有益であると強調しました。
一方、反対側は、EVが必ずしも環境に優しいとは言えない点を指摘しました。まず、バッテリーの生産過程において大量のエネルギーが消費され、その過程で環境汚染が発生することを強調しました。また、バッテリーのリサイクルや廃棄に関する技術とインフラがまだ十分に整備されておらず、その処理が環境に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しました。さらに、原材料の採取過程において、人権問題や持続可能性の懸念も浮上しました。この討論は、EVの本当の環境影響を評価するためにはさらなる研究が必要であり、持続可能な技術の開発が急務であることを示しました。
最後に、生物多様性の保護が過剰かどうかについてのディベートが行われました。肯定側は、現行の生物多様性保護政策が経済、環境、そして社会に過度な負担をかけていると主張しました。彼らは、保護地域の拡大や厳しい規制が、資源の非効率な使用や管理の質の低下、さらには先住民の生活圏からの排除を招いていると指摘しました。これにより、本来の保護目的を達成できていないと論じ、効果的かつバランスの取れた保護戦略が必要であると訴えました。
一方、反対側は、生物多様性の保護はむしろ不十分であり、地球の健康と未来世代のために絶対に必要であると強調しました。現在の保護措置では多くの種が絶滅の危機に瀕しており、これを防ぐためにはさらなる保護が求められると主張しました。生物多様性は、気候変動の緩和、人々の健康、経済の安定、文化的価値の維持において重要な役割を果たしており、これらの要素を守るための保護は不可欠であると述べました。この討論は、生物多様性保護の緊急性とその重要性を再確認する機会となりました。
(張 宇轩・何 美蘭・下大迫 樹)
<閉会式>
2日間に及んだ議論を経て、第12回日中韓のユースフォーラムの閉会式が8月23日に開催された。閉会式では、各国の学生代表からのスピーチや国連協会からのご高評を賜ることができた。今年の主催国の韓国国連代表である郭英薫氏は、若者への世代交代の大切さを述べた。今まで平和のために何をするべきかを考えるだけではなく、そのために働き続けた国連協会の代表のスピーチを聞いて私は強く感銘を受けた。一方で、これから私たち、ユース、がこの3カ国の将来だけではなく、世界が直面する問題について議論する必要があることも理解している。そのためには、国連協会の代表スピーチを見習って、私たちができることを一生懸命考え、行動に移すことが必要で、その分岐点にまさに今、私たちがいることを感じた。
また、今年の日本学生団の団長が、今年のユースフォーラムの感想を述べた。その中で、彼が重要視したのが、周りに「関心を持つ」という気持ちだ。小さい問題でも大きい問題でも解決しなくてはいけないという心構えは変わらない。問題は誰かが気にし、声をあげることで解決の第一歩が始まる。逆に言えば、誰も気にしなければ解決どころか、悪化してしまう可能性がある。これが彼の言いたいことであり、さまざまなな問題へのアクションが私たちのミッションである。この試練はこれからも私たちが続けていかなければならない。
また、今年のトピックの一つはAI(人工知能)であった。AI使用の是非が問われる中で、人間とAIの一番の違いは「心」にあると私は思う。私たちには、「気にする心」があるからこそ今まで直面する問題を解決することができた。それに加えて、これからはより一層、周りに関心を持ち、行動をすることが大切である。なぜなら、今世界が抱える問題は手ごわく、一国では到底解決できないからだ。
日中韓の1人1人の学生が、団結し、国連に関する問題や薬物問題など様々な具体的なトピックのついて意見交換し、議論を交わすことができた。国ごとの、または個人ごとの意見の食い違いはあったものの、私たちの目標は同じであることを感じた。それぞれの国が抱える異なる課題に対しても、共通の目的に向かって協力し合うことの重要性を再確認した。閉会式は改めて、それを感じ、この3カ国が直面する課題について考え直す良いきっかけとなった。
(山田 小夜子)
(本フォーラム全参加者の集合写真)
<文化交流>
韓中日ユースフォーラムの終了後、各国の学生たちが準備した文化交流会が行われました。
最初に登場したのは、韓国の学生たちです。彼らは参加者に韓国の伝統手工芸品を体験できる素晴らしい企画を提供してくれました。会場にはK-POPが流れ、その明るいリズムに乗りながら、参加者たちは伝統工芸に挑戦しました。中には、黙々と作業に没頭するグループもいれば、和気藹々とした雰囲気の中で作業を進めるグループもありました。作品が完成すると、韓国側のスタッフによる厳選な審査が行われ、最も優れた作品を作ったグループには賞品が贈られました。スタッフの方々も参加し、全員にとって楽しく、有意義な体験となりました。
次に、中国の学生たちがステージに立ち、李白の詩「将進酒」の朗読でスタートしました。彼らは中国の歴史や地理に関するクイズを行い、参加者たちはその知識を競い合いました。景品として用意されたパンダの柄のバッグは大人気で、多くの学生が景品を獲得しようと真剣にクイズに挑み、会場は熱気に包まれました。さらに、チェロの演奏が得意な学生が中国の美しい風景とともに壮大な演奏を動画に収めて披露しました。映像には中国各地の風景が映し出され、参加者からは「実際に中国に行ってみたい」という声が聞こえてきました。また、現れた中国の女学生たちは深紅のドレスを身に纏い、優雅な踊りを披露しました。途中で赤いスカートを脱ぎ、シャツを羽織って中国現代舞踊も取り入れるなど、彼女たちのパフォーマンスは観客を魅了しました。続いて「小さな幸運」というデュエット曲が披露され、まるでコンサート会場のように参加者たちがスマホのライトを照らし、音楽に合わせて楽しみました。最後には、中国の学生たち全員が一斉にステージに上がり、「最炫民族風」というポップな音楽に合わせて合唱し、掛け声を交えながらのエネルギッシュなパフォーマンスで締めくくりました。
会場の興奮がまだ冷めやらぬ中、ついに日本団の番が訪れました。私たちは運動会をテーマに、まずは借り物競走を行いました。参加者はペアを組み、会場内の様々な人を借りて競い合いました。特に、テーマに合った人物が一人しかいないときの奪い合いは、会場を爆笑の渦に巻き込みました。体が温まったところで、次はソーラン節を披露しました。山本大使も飛び入り参加し、学生たちと一緒に踊りました。その後、私たちは「一期一会を大切に」というメッセージを込めて、参加者全員で「世界で一つだけの花」や世界的大ヒット映画「君の名は」の曲を歌い、最後は円陣を組みながら「We Are The World」で締めくくりました。フォーラムで学んだことや社会への関心を持ち続ける決意を新たにしながら、文化交流会は感動的なフィナーレを迎えました。
この文化交流会は、韓中日三国の学生たちがそれぞれの国の伝統や現代の文化を体験する貴重な機会となり、各国の学生間の友好をさらに深めたと感じられました。
(原 鳳里)
(文化交流で We are the World を歌っている様子)
<観光>
三日目の午前中にDebateの行程が終わり、私たちは1時間ほどバスに揺られて国立中央博物館に向かった。長い時間をかけて準備してきたSession PresentationとDebateが成功に終わった安堵からか、日本団と韓国団の半分が乗っていたバスの中は歌や会話で盛り上がっていた。有名なK-pop事務所であるHYBEのビルや、韓国の街並みに気を取られている間に博物館に着き、一時間という限られた時間の中での博物館見学が始まった。
建物に入ってまず目につくのは、吹き抜けの中に設置された「敬天寺十層石塔」だ。建物の三階まで届く大きさながら、繊細な装飾の施された大理石の塔である。1907年に日本に運び出され、1918年に返還されてから、長期間の修繕を経て1962年に国宝に指定された。日本による植民地化という痛々しい歴史が韓国の文化にも大きな影響を及ぼしたことが思いだされる作品であった。他にも植民地時代を扱った展示では豊臣秀吉が16世紀に朝鮮を侵攻した際の出来事に焦点を当て、夥しい数の朝鮮人の耳や鼻を切り落とすという残虐な行為が記録されており、衝撃を受けた。さらに、14世紀頃の東アジアの地図も展示されており、そこでは日本が中国や韓国に比べて非常に小さく描かれていた。韓国人の友人から、これは当時から意図的に政治的な意図をもって描かれたものだと教えてもらい、とても興味深く感じた。現在も多くの問題を抱える日中韓の三ヶ国だが、これらの展示を見て長い道を歩んできたのだと深く思うと共に、このようなことが二度と繰り返されないためにも近い関係を保つことの重要性が身にしみてわかる展示であった。
日中韓ユースフォーラムの日本代表として韓国を訪れている身として、「三国三色」という特別展にも大いに目が引かれた。日中韓の博物館が協力しテーマに沿った展示を行う企画で、今年は漆器が展示されていた。二年に一度、三国持ち回りで開催されるという展示で、韓国での開催は六年に一度になるのにも関わらず、このイベントで日中韓の参加者が集まっている時に重なるという偶然に嬉しさを感じた。展示は各国独自の技術やスタイルを持ちつつも、どれもが美しい漆器という共通点に、歴史や政治によって分断されていても文化的に強い繋がりを持った国々なんだという思いが感じられた。
常設展では「思惟空間」と題された国宝の彫刻半跏思惟像二点が強く印象に残っている。他の展示とは違い薄暗く点灯された広い部屋の中で、考え事をしているように見えるその像のみが置かれている空間で、見るものも考えさせるようにディスプレイされている。他の展示もとても楽しんだが、体験として彫刻を楽しむようにデザインされたこの展示は特に印象深かった。
時間が許せば一階ずつゆっくり回りたいところであったが、楽しんでいる間の一時間はあっという間に経ってしまい、私たちはホテルへの帰路へついた。最終日には昼過ぎの空港行きバスまでの自由時間が控えていたので、短時間しか博物館を見学することができなかったことを惜しみつつ、皆翌日への楽しみも抱えていた。
四日目最終日の自由時間は、多くの日本団メンバーがロッテタワーに向かった。ホテルから徒歩で20分ほどの場所にある巨大なショッピングモールである。家族や友人にお土産を買ったり、カフェに入ったり好きな時間を過ごしていた。フォーラムの行程中は一日ホテルで座っている状態なので、外に出てハングルの看板を見たり韓国語を聞くとちゃんとルになっていて、探索するだけで裕に一日や二日くらい遊べるだろうなと歩きながら思って韓国に来たんだな、と再認識する。複数のビルが連なる本当に巨大なモーいた。
国立中央博物館もロッテタワーの散策も、もう一度しっかりと観光しに、またフォーラムで作った友人に会いに、韓国に帰ってきたいと思わせる充実した時間であった。この短い観光時間中でも、観光メンバーが通訳や交通手段の確保してくれるなど、彼らなしではここまで満喫することができなかったと思う。彼らに感謝すると共に、来年の日本開催時には次の中韓メンバーが同じくらい日本を楽しんでほしいと願う。
(望月 美波)
<終わりに>
ソウルの滞在先で韓国団や中国団と名残惜しい別れを交わし、日本団は帰途についた。4日間のフォーラムは短いようで長くも感じられたが、団員たちの顔にはそれぞれの達成感が浮かんでいた
日中韓それぞれから20名が集まり、世界規模の課題について議論を深めたことは非常に意義深い経験であった。学生という立場だからこそ柔軟な発想を持ち、それを異なる国の学生たちと共有し、互いに議論し合うことは、参加者全員にとって貴重な体験となった。また、フォーラム外での交流を通じて、学生たちは単なる参加者を超え、志を共有する仲間として、今後も続くコミュニティを築くことができた。夢や目標に向かう若者たちが出会い、互いを尊重しながら未来を共に築くためのかけがえのない4日間となった。
コロナ後初となる第11回JCKユースフォーラムから一年が経過し、今年も無事に開催されたことは、今後の日中韓関係に前向きな影響をもたらす重要な転機であった。今回の開催にあたり、日中韓の国連協会や関係者の方々には多大な尽力をいただいたことに、心より感謝申し上げたい。また、日本団としては、学生たちに「志」を教えてくださった長谷川祐弘先生や、外交の本質を伝えてくださった山本忠通大使、準備に多大な支援をいただいた日本国連協会の金薫好氏、長川美里氏、そして半年以上にわたり日本団の形成を陰で支えてくださった学生事務局をはじめ、JCK OBOGの方々にも深い敬意と感謝の意を表する。来年は日本での開催となるが、今後も多くの支援を受けながら、日中韓ユースフォーラムが毎年開催され、三カ国の協調が一層進むことを願っている。
(菅原 風音)
(日本団の集合写真)