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第11回日中韓ユースフォーラム報告書

<はじめに>

第11回目となる日中韓ユースフォーラムは、中国・北京にて開催された。今回参加した20名の日本団は、8月23日から27日までの5日間を中国で過ごした。初日と最終日は基本的に移動時間が占めていたため、実質的に3日間の現地滞在となった。今回のフォーラムでは日中韓からそれぞれ20名の代表が集まり、5つのテーマについて議論がなされた。議論の方式としては、まず各国からそれぞれ選出された2名の発表者が7分間のスピーチを行い、続いてその内容に関して各国2名のコメンテーターが質問や意見を投げかけた。最後にオープンフロアとなり、全参加者60名を巻き込んだ議論となる運びであった。議論を進めたのは同様に各国より選出されたモデレーターであり、議論の全ての要素が学生によって行われていたところに本ユースフォーラムの特徴が見出された。以下では、開会式から各パネルの議論、閉会式の要点をまとめると共に、その後行われた三カ国の文化交流イベントや観光の時間についても紹介する。

(本フォーラム全参加者の集合写真)

<開会式>

コロナ禍があけて行われた第11回日中韓ユースフォーラムは、中国の首都・北京で行われた。開会式は各国の参加者が北京に着いた翌日の8月24日に中国人民大学で執り行われた。開会式は各国の4名の方々の言葉から始まった。

まず初めに韓国国連の郭英薰会長が東アジアの国々が喋る英語について触れた。韓国、日本、中国それぞれの国が抱える特有の発音があること、それらは気にせずに交流していこうという内容であった。協力をしあうこと、前の世代が行ってきた方法を変えることは私たちの世代ができることであり希望であるというお言葉をいただいた。参加者のフォーラムに対して抱えていた緊張をほぐし勇気づけた言葉であった。

二人目に話された中国国連の事務次長も兼任しておられる胡文丽副会長は、今世界中では様々なチャレンジに面していることそして今回のフォーラムで私たちユース世代に違う視点からの解決策、アイディアを共有してほしいとの言葉を受けた。この言葉は私たちに躊躇いを持たず自分自身の考えや気になっていた質問を投げかけるため後押しになった。 続いて日本国連の明石康事務次長は、このフォーラムの参加により、さらに良い国際機関になるようにお言葉を私たちにくださった。前の世代が来ることができなかったステージにユース世代がいること、そして私たちが世界をよりよくできること、今回のフォーラムがその一歩になると参加者を勇気づけた。

最後に話された人民大学の張晓萌国際事務次長は架け橋の話をしてくださった。友好的な交流の重要性や、今回のフォーラムでも積極的な関わりはみんなのためになると参加者を励ました。

ここ数年はコロナ禍で制限されていた国際交流がついに解禁されたこともあり、開会式の言葉一つ一つが今回の交流に抱えていた緊張や不安を和らげた。今回コロナ禍明けにこのような機会を中国の首都北京で開催してくださった国連協会に深く感謝したい。

(島袋 萌乃華)

(開会式で登壇した明石康 元国連事務総長特別代表)

<パネル1>

パネル1では海洋環境保護(Marine Environment Protection)について発表、議論をした。日本のパネル代表者はプラスチック汚染問題と福島原発汚染水問題について言及した。福島の汚染水問題について、汚染水の海洋放出における漁業・海洋生態系・人体への影響について述べ、短期的よりも長期的な経済効果を求めていくべきであり、これからを担う若者である私たちが積極的に議論に参加することで福島の問題へ多くの人の関心を高め、何ができるかを考えて行動すべきだという意見を述べた。発表の2日前に日本政府が福島の汚染水を24日(発表当日)に海洋放出することを発表したことでパネル1のグループは発表内容について直前まで何度も議論をし、発表内容に変更を加えた。正直なところ、日本代表のパネル1のメンバーは汚染水の排出に対して元々はあまり肯定的でない考えを持っていたが、日本の政府が汚染水排出を決めてしまった以上それに反対する中国や韓国に同調して日本を批判するわけにはいかず、グループ1の発表者は発表当日の朝ギリギリまでニュースを見て情報を集めて議論を重ね、反論に対する反論まで準備をした。予想通り、タイムリーなこの話題には中国や韓国の登壇者の全員が言及し、質疑応答の時間には多くの意見が寄せられた。韓国側の登壇者は福島の汚染水を海洋放出した際の隣国での経済的な影響についてまとめた意見を述べた。質疑応答の時間には福島原発汚染水処理問題について日本・中国・韓国の若者たちがどのような活動をするべきか、それがどのような効果をもたらすのか、また、実現可能なのかどうかについて具体的な考えを深めた。中国の参加者がIAEA(国際原子力機関)の研究や情報の信憑性について疑問や意見を述べて質問を投げかけた際には、IAEAの情報の信頼性を支持し、それらをもとに議論をした韓国や日本の参加者から多くの意見がでて議論が最も白熱した。信頼する情報機関が異なれば日中韓の間での信頼関係を築くのは難しいのではないかという意見も出てきた。福島の原発汚染水処理問題は国家間の問題で複雑で話し合うには難しい問題だったが、隣接する日中韓ならではの懸念や問題点にもしっかりと目を向け、互いに尊重し合いながら意見を述べ、日中韓の若者がその問題をどう考え、どう捉えているかを知ることができる貴重な機会となった。

話題としては福島原発汚染水処理問題がメインとなったが、日中韓の登壇者はプラスチック汚染問題や海洋酸性化の問題についても述べた。プラスチックだけでなく廃棄物の高いリサイクル率を誇る韓国の取り組みについて韓国の登壇者に質問すると、政府が主体となって取り組んでいるという返答を受けました。韓国では2000年までリサイクル率が低く問題となっていたが、数十年でリサイクル率が引き上がった。政府が主導して数十年で劇的な変化をもたらしたのは韓国の、やると決めたらすぐに行動に移す“パリパリ”の国民性が関係しているのではないと考えると、国民性は国の取り組みに大きな影響を与えることがわかる。さまざまな問題とその解決策を国民性という観点から考えてみるという新しい視点を学ぶことができた。これこそ今回の日中韓ユースフォーラムの目的の一つであるのではないだろうか。

(丸川 憂)

(パネル1の様子)

<パネル2>

デジタルテクノロジーの進化、そして人工知能(AI)の恐るべき発展により、様々な問題が近年浮き彫りになってきた。パネル2では、デジタルテクノロジーがもたらした問題点とその解決策、そして日中韓三国での将来的な協力について話合われた。ここでは6人のスピーカーのスピーチを要約し、そこで挙げられた問題点、解決策などを挙げていきたい。

スピーカー1:Ms. SUN Ze(中国)
デジタルテクノロジーが経済の国際化に多大に貢献した一方で、近年人工知能(AI)という新たな技術が使われ始めた。AIはデジタルテクノロジーとは全く異なるものであり、だからこそ新しい形での国家間協力が必要だ。AIは経済活動の研究、また利益などの予想に使用され、このデータに基づいた国家間の貿易などは、今の国際経済の動向を大きく変化させる可能性がある。特に中国の発展は日本、韓国にとって見逃せないものだろう。この世界的なトレンドの中、日中韓では、デジタルインフラの整備での協力、また、デジタルデバイドと呼ばれる格差をなくすための教育制度構築など、主にインフラの面で協力できるだろう。また、日中韓は少子高齢化社会に突入しており、AIの活用は労働力不足を補えるだろう。この共通の課題について、三国は一層協力を促進できるだろう。

スピーカー2:Mr. SUGAWARA Futo(日本)
現代のグローバル情報社会の中で、特に顕著な問題はデジタルデバイドだ。デジタルテクノロジーは生活を一段と便利にする一方、その複雑さ、教育不足などから、社会のトレンドから取り残される人が後を絶たない。特に日本では高齢者へのデジタルテクノロジーへのアクセスのなさ、教育不足による格差の拡大が懸念されている。デジタルテクノロジーの促進による社会的な利益はこれから拡大すると考えられ、教育制度の構築、デジタルテクノロジーへのアクセスをより簡単にすることが課題といえる。

スピーカー3:Ms. KNOW Jeongeun(韓国)
AIの発展において、一番の課題はプライバシーだろう。AIはその発展過程で、自由に情報を集め、自ら学習していく。個人情報など様々なデータが収集可能だ。また、そこで問題になるのが、AIが集める情報の信ぴょう性だ。様々な偽情報が蔓延するからこそ、AIを信用するのも難しい。そこで、サイバー上での法律など、法に基づくルールの選定が重要になってくる。プライバシーを守るため、必要のない情報収集は違法とするなど、規定を設けるべきだ。

スピーカー4:Mr. SHI Xiaoyuan(中国)
デジタルテクノロジーにおいて、情報のリークはとても深刻な問題だ。また、情報に国境はないため、国際的な協力が必要になってくる。まさに無法地帯となっているこのサイバー空間には、デジタルインフラが必要だ。そのためには国際機関である国連の役割が重要になってくる。国連は国家間のサイバーセキュリティ問題など包括的に扱える唯一の機関であり、法の樹立などを含め、デジタルインフラの構築などで国家間の協力を促すことが必要だ。

スピーカー5:Mr. MIURA Hikaru(日本)
AIブームが巻き起こるこの時代、デジタルテクノロジーの発展は留まることを知らない。その一方で、それを扱うための教育が行き届いておらず、デジタルデバイドが深刻な問題となっている。また、AIの発展により職を失う人も少なくない。この不平等な状態を、すべて解決できるのは教育だ。そのため教育制度を整えることが必要だ。また、地域ごと、学校ごとでの養育格差も問題点として挙げられる。

スピーカー6:Mr. PARK K Wanwoong(韓国)
Covid-19のパンデミックにより、デジタルテクノロジーの便利さが露わになった。様々な場面でデジタルテクノロジーが使われる中、様々な問題も浮き彫りになった。大衆へのサベイランス、アクセスの不平等さ、また、様々なジェンダーに対する偏見、データの規制に関する問題もある。情報のリーク、個人情報の漏れなどプライバシーに関することは特に深刻だ。また、法律の問題もあれば、情報保護の問題もある。決まったルールなどがないために、人権侵害やハラスメントが横行し大きな問題となっている。これらを解決するためには、すべての人が平等にインターネットにアクセスできる環境を作り、また、人権問題などについては、国連による人権保護や国際的フレームワークの構築が鍵となるだろう。ビジネス、国連人権理事会、OHCHRなどを含め、様々なフィールドの人が関わり合い、話し合っていくことが今後の人権保護、そして人を第一に考えた有意義なデジタルテクノロジーの使用につながるだろう。

この6人のスピーチで挙げられた問題点は、デジタルインフラの整備、デジタルデバイド、教育、立法、雇用問題、プライバシー保護、人権保護、国家間のサイバーセキュリティ、そして国連の役割だ。また、6人全員が挙げていた、そしてコメンテーターも含め重視していたことは日中韓三国間での国際協力だ。それぞれ問題点を挙げ、解決すべきこと、解決策などを挙げていたが、どのように日中韓が将来的に協力できるか、どのように合意にたどり着けるかが今後の課題となるだろう。

(竹元 大智)

<パネル3>

全世界的に問題となっている人口の高齢化は、社会の長期的な発展に伴いすべての国が遅かれ早かれ経験するプロセスである。高齢化の度合いを評価する指標として最もよく使われるのは、65歳以上の人口の割合と人口の年齢の中央値である。国連によると、65歳以上の人口はそれ以下の人口よりも急速に増加しており、2050年には全人口の16%に上昇すると言われている。数にすると、5歳以下の子どもの2倍以上、12歳以下の人口とほぼ同じである。背景には、寿命の長期化と出生率の低下がある。日中韓も例外ではなく、むしろ諸外国に比べ深刻な様相を呈している。本パネルでは、様々な角度から高齢化そのものの解決策や高齢化がもたらす問題と対策について議論した。

マクロ視点からは、高齢化が国家の経済発展を制限する可能性が指摘された。第一に、高齢化は生産年齢人口=労働力の減少と解釈できる。調査によると、2035年の中国の生産年齢人口は8億6000万人と推定されている。これは15年で1億600万人減少する計算である。少ない労働人口でこれまでと同じ仕事量をこなし経済を発展させるためには労働時間を延長する必要があり、結果として若い世代への負担が増すだろう。第二に、高齢化は社会全体のイノベーション能力を低下させる。消費者需要の拡大は技術革新を促進するが、生産年齢人口の縮小した高齢化社会では消費者需要も縮小する。また、高齢人口は若年層に比べ、新しい製品や技術を受容/使用することに消極的である。これは国家のイノベーション能力を制限するだろう。第三に、高齢化は財政負担を増加させる。医療費や年金等、福祉関連の歳出が増加し、前述の生産年齢人口や消費者需要の縮小が、歳入を減少させるだろう。

生産年齢人口の減少に対しては、「高齢者の雇用機会拡大」が提案された。そのためには、高齢人口は非生産的であるという先入観を排除し、高齢者の雇用機会拡大の必要性について意識を向上させる必要がある。ロバート・バトラーの「生産的高齢化」という概念や、米国国家研究委員会の「教育と健康を促進することで高齢化社会の負の影響を相殺できる可能性」を示唆する実験結果などが役に立つだろう。また、高齢者は人生を通して専門知識や経験を蓄積している。若者の失業に対する懸念はあるだろうが、高齢者と若者の労働は内容や強みが異なるため、世代ごとに雇用創出策を施す必要がある。こうして高齢者の雇用機会が拡大できれば、高齢者の貧困緩和や若年層の負担軽減にも繋がるだろう。「婚外出産支援の強化」も、ひとつの選択肢である。日中韓において結婚と出産は相関関係にある一方、若年層は結婚に伴う様々な費用や習慣を負担に感じている。また、韓国では不妊治療を含む様々な出産支援が法的な婚姻境界に基づいて行われている。そのため、結婚という制度的枠組みから脱却し、婚外出産への支援を強化すれば、合計特殊出生率を高められるだろう。これには、非伝統的家族の地位を認めるような家族関連法の改正が必要である。例えばスウェーデンの同棲法は、結婚せずに同居する世帯の法的承認を担保している。高齢化に対処するには、これらのような思慮深く変革的な政策選択が必要である。

よりミクロな視点からは、日本の高齢化社会が引き起こしている「老々介護」「ヤングケアラー」という2つの社会問題が、日中韓に共通の「家族を中心とした儒教的価値観」と関係していると指摘された。老々介護とは、介護者と被介護者の両方が65 歳以上のケースを指す。近親者による介護には多くの利点があるが、介護者が高齢の場合は身体的/精神的に大きな負担が伴う。現在、日本の4人に1人は65歳以上で、老々介護の数は年々増加している。また、伝統的な家族構成や人生観も変化している。にもかかわらず、日本の介護保険制度が想定する介護者は「若く健康で時間的余裕のある同居家族」である。このような制度が変わらなければ、ますます多くの人が老々介護で苦しむ。そしてその時の高齢介護者は私たち世代である。一方、ヤングケアラーとは、通常大人が担う家事や家族の世話を日常的に行っている子どもを指す。家族同士の助け合いと言うと美しく聞こえるが、彼らは子どもとして楽しめたはずの様々な時間と長期的な利益を失う。この問題の背景にも家族志向の価値観が垣間見える。ある調査によると、「親の介護は自分でするのが親孝行だ」「親が認知症になったら見守るべきだ」という意見に6割以上が同意している。また、ヤングケアラーのいる家庭ほど「介護は家族で担うもの」という意識が強い。このままいけば、近い将来に私たちの子供がヤングケアラーになるかもしれない。家族中心のケアが悪いという話ではない。ただ、高齢化社会は避けられない現在・未来である。現在の前時代的な家族構成や人生観を前提としたシステムでは、私たち自身や愛する人が老々介護やヤングケアラー問題の当事者になるだろう。

また、高齢者の暮らしの満足度向上に役立つ「地域コミュニティ」の提案を通して、高齢化社会と個人の幸福に結びつきが強調された。2023年の日本の調査によると、日常生活に十分満足している高齢者は約3割にとどまっている。逆に、高齢者の約半数は家族や友人と話しているときに人生の満足感を感じると答えている。しかし、現代社会の生き方は多様化し、従来の理想的な家族形態を持たない人々が取り残されている。また、多くの人にとって中心的なコミュニティは職場だが、退職した高齢者はこれを持たない。これらの背景を踏まえると、自分らしさを表現できる「地域コミュニティ」が、高齢者の生活満足度を向上させる重要なキーワードになり得る。家族に限らず、地域住民同士のコミュニケーションの場を作ることが大切なのである。実際、コミュニティ活動は単なる運動や趣味よりも健康リスクを軽減させる。具体例として、発表者が留学中に住んでいたオーストラリアのシェアハウスが挙げられた。高齢のオーナーが管理するこの集合住宅において、住民同士は「話し相手」であり、「ペットの世話を一緒にやってくれる人」であった。シェアメイトというささやかな関係で、人数も限られているが、だからこそコミュニケーションを取り合い、支え合うことができていた。今後、医療のさらなる発展により、平均寿命はますます長くなっていくだろう。オーストラリアのシェアハウスは、幸福に満ちた老後を実現する地域コミュニティの可能性を示唆している。小さな協力関係によって、人はどこにいても最後まで自立して人生を生きていくことができる。

結びに、全てのスピーチ・質疑応答・自由討論に共通していた点を3つ挙げたい。ひとつ目は、日中韓の現状や価値観の類似を強調する言葉である。中でもひとりひとりの「幸せに生きたい」という思いは、国に関係なく共通であると感じた。ふたつ目は、日中韓および諸外国の事例から学ぼうとする姿勢である。事前に広い視点で調査を行ったであろうことが伺えた。みっつ目は問いかけの鋭さである。高齢者雇用拡大と若年層の失業率改善はどう両立するか、若者の意見が反映されにくい高齢者社会は政治的に問題ではないか等、スピーチ内容を踏まえて重要な論点を場にもたらした。私たちならば、本フォーラム後も意見を交わし、ともに高齢化社会と付随する諸問題に対処していけるだろう。

(高橋 佑稀乃)

(パネル3のスピーカー:高橋 佑稀乃 氏)

<パネル4>

本パネルでは、”Role of Youth in Global Governance”、つまりグローバルガバナンスにおける若者・青少年の役割について議論された。

今日、世界・国内、国家・地域の全てのレベルにおいて、若者の役割は増してきている。そのような状況で、国際連合も、社会変化、経済成長、技術革新など様々な点において、ユースが重要な人材だと認識してきた。実際に、1999年には、国連総会は毎年8月12日を「世界青少年デー」と記念すると宣言した。そして、世界の若者の状況を改善する国内行動や国際支援のガイドラインである「世界青年行動計画」をよりよく認識してもらう1つの方法として、この日を支援して広報活動を行うように勧告した。それ以来、ユースに対するキャンペーンを続けており、現在では「2030アジェンダ」の実施に若者の支援を動員するための取り組みが行われている。 本パネルのスピーチでは、日中韓のスピーカーが、ローカル・グローバルの両方の観点から議論を行った。例えば、韓国では、MZ世代が自己中心的であると非難されがちである一方で、社会問題に対する関心がこれまでの世代と比べて強く、彼らの声を形にする必要性が高まってきている。中国でも、若者の声が取り上げられることが多く、ユースによる国際問題への参画の必要性が高まってきている。日本でも同じ傾向が見られ、3国の間では、若者の声を国際的ポリシーとして形にするための機会が欠如していることが共通認識され、それを改善するためのプラットフォームの構築が叫ばれた。
これに関連して、日本の代表者から提案された「東アジアにおける若者国連総会の設置」は、上述の問題に対する解決策として議論された。グローバルガバナンスに対する若者の役割が 重要視される中で、ヨーロッパでは、”European Youth Parliament”が存在する一方、東アジアにおいてそのようなプラットフォームはまだ存在していない。東アジア初の若者国連総会を開催し、教育、国籍、宗教、人種などさまざまな立場の人が広く参画することで、若者の国際問題に対する当事者意識をさらに向上させ、彼らの声を実際に政策作成に影響させることが目的である。

若者の声が政策作成に影響を与えた例として記憶に新しいのは、パキスタン出身のマララ・ユスフザイ氏の活動であろう。彼女の不屈の精神と勇敢な行動は、国を変え、パキスタン国会は、国内で初めて無償で教育を受ける権利を盛り込む法案を可決した。「東アジアにおける若者国連総会」が実現すれば、若者のグローバルガバナンスに対するアクセシビリティが向上し、彼女のような悲惨な経験をせずとも、より多くの若者の声が世界に届くようになる。未来を拓く若者が集まった今回の日中韓ユースフォーラムが、実際に若者の手によって世界を変える一例になるよう、国際社会においてこの策が検討・実現されることを祈る。

(菅原 風音)

<パネル5>

本フォーラム最後の議論の場となったパネル5のテーマは「持続可能な開発 (Sustainable Development)」であった。SDGsの達成に向けて世界中で様々な活動が展開される一方で、「脱グローバル化」「ローカリゼーション」の流れの中で国境を越えた協力が難航している現状がある。そんな中、中国・日本・韓国の学生たちが個々のバックグラウンドを踏まえながら、SDGsの達成に向けた方策や国家間協力をより促進させていくための施策について議論した。

初めにスピーチを行ったのは、中国代表の竜苗苗。彼女はSDGsの達成に向けて立ちはだかる障害を整理した後、注目されるべき3つの関係として、「支援国と被支援国」「科学と政治」「政府と国際機関」を挙げた。その上で、私たちユース世代が革新的な解決策を探っていく必要性を強調した。

次にスピーチを行ったのは、日本代表・柴田愛理。柴田は、日本におけるSDGsの取り組みに焦点を当て、政府の基本方針を紹介した後、特に男女格差の問題について現状と解決策を述べた。経済・政治分野で課題の残る日本の男女格差の現状を踏まえ、自治体を中心とした格差是正に向けた動きの可能性について論じた。

次のスピーカーは韓国代表・鄭丞宰。彼は各国のパンデミックへの対応や各国の軍事費の増大に象徴される国際社会の分裂に注目し、持続可能な開発目標を達成するためには国家間の協力を強化していく必要性があると強調した。

その次にスピーチを行ったのは、中国代表の周耘鋒だ。彼は特に環境問題に焦点を当ててスピーチを行い、持続可能な未来のために中国が果たす役割や国家間の協力の必要性について述べた。

次のスピーカーは、日本代表として参加したグエンフックサン。彼は、持続的にエネルギー調達を行うための技術進歩についてのスピーチを行った。日本とベトナムの両方にルーツを持つ彼は、ベトナムの現状にも言及しつつ、様々な新技術の紹介や国家間協力に向けた提言を行った。

最後のスピーカーは、韓国代表の金延諸だ。彼女は気候変動の問題に着目し、発展途上国・先進国の果たす責任の違いや、私たち若者世代が担うことのできる役割について述べた。

6人のスピーカーによるスピーチの後は、質疑応答の時間が設けられた。日本代表として参加した横田晏からは、「パンデミックやウクライナでの戦争など国際社会の動揺が続く中、SDGsのような長期的な目標に取り組んでいくためにはどのような施策が必要になるか」という質問が出された。それに対して中国代表の周耘鋒は、中国における危機対処の現状に触れたうえで、SDGsのような長期的なゴールに取り組んでいくためには、私たち若者の果たす役割と責任が重要であることを再確認した。また、日本代表としてコメンテーターを務めた島袋萌乃華は、日本の男女格差の深刻な現状に注目し、中国や韓国の成功事例について質問を行った。それに対して中国代表の周耘鋒は、自らの家で父母それぞれが担っていた役割などにも言及しつつ、中国の男女の役割の違いやジェンダーギャップに関する現状を説明した。その他の質問として、韓国代表の金玟住からは「ODAの透明性を担保するために中国政府はどのような努力を行っているのか」という論点が提示された。質問に対する回答として、中国代表の竜苗苗は、中国のODAの現状について詳細に説明しつつ、中国政府が行っている透明性に関する努力について述べた。他に、中国代表の彭錦から、「国際的な協力の中で、地域間の経済格差を減じていくためにはどのようなことが必要か」という質問が出された。質問に対して、韓国代表の鄭丞宰は韓国国内での地域間格差の現状を紹介しつつ、韓国において取り組まれている施策の一部を紹介した。

本パネルでは、スピーカーもコメンテーターもその他の参加学生も、特に熱を持って議論に参加していた印象だ。複数のスピーカーが強調したように、持続可能な開発を実現していくためには国家間の協力、そして我々若者世代の果たす役割が非常に重要になってくるだろう。「持続可能な社会」に向けて、三国から集まった我々ユースがどのような役割を果たしていくことができるのか、考え続けていきたい。

(三浦 輝)

(日本団の集合写真)

<閉会式>

2日間に渡る議論を終え、第11回日中韓ユースフォーラムの閉会式が開催された。各国の学生代表からのスピーチ、また日中韓による国連協会からの挨拶が行われた。 中国の学生代表は、この会議で議論された海洋環境、サンゴ礁保護、デジタルテクノロジー、人口の高齢化、グローバルガバナンスにおける若者の役割、持続可能な開発の5つのトピックについて触れた。これらの問題は、中国だけでなく、世界全体が直面している共通の課題であると言及した。また、中国が5000年という長い歴史を有する国であり、常に平和的共存とウィンウィンの協力を外交原則として守ってきたことを強調した。中国がグローバルガバナンスにおいて多国間主義を堅固に支持し、国際問題への積極的な参加を通じて、グローバル問題の解決に中国の知恵と力を貢献していることについても述べた。日本の学生代表は、人間としての共通性を強調し、青年の役割について述べた。彼は、CJK Youth Forumを批判的に(Critical)、しかし楽しく(Joyful)、そして優しく(Kind)であることを定義づけ、団結の重要性を訴えた。韓国の学生代表は、このフォーラムを通じて得た友情と理解を強調し、我々の世代が隣人関係を改善することができると述べた。

中国国連協会からは、本フォーラムが若者たちにとって重要な経験であり、彼らがグローバルな課題に対して積極的に取り組むことを奨励した。また、若者が未来を形成する力を持っていると強調し、彼らが国際協力を深め、より成熟で柔軟性のある友好関係構築に期待を寄せた。また、本フォーラムに参加したすべての人々に感謝し、若者が社会の持続可能な開発に不可欠であると強調した。彼は、中国、日本、韓国の友好協力の重要な参加者、貢献者、先駆者となることを期待していると今後の明るい未来について言及した。中国人民大学の代表者からは、本フォーラムの成功を称え、参加者たちの積極的な参加と相互支援に感謝した。また、彼は学生たちが新たな友人と新たな視点を得たこと、人間が直面する共通の課題に対する新たな解決策を見つけることができると確信したことを述べた。また若者が持つ力への期待が語られた。

参加者一人一人が心を結び、国際社会における諸問題について真剣に語り合い、向き合ったフォーラムを経て、閉会式では和気藹々とした雰囲気で行われた。各々が次なるステージへ舵を切る式典となった。

(渡辺 歩夏)

<文化交流>

閉会式に続いて行われたのは文化交流、日中韓の学生によるパフォーマンスである。互いの文化への理解を深めるために行われたこのセッションで、熱い討論と真剣な表情が会場に溢れていたパネルセッションとは対照的に、学生たちは満面の笑みで各パフォーマンスを楽しんでいた。

韓国の学生たちが披露したのはKポップカルチャー。今や日中韓どころか世界中で大人気な韓国人アーティストの曲を歌って踊ってみせた。観客は大いに盛り上がり、ステージ上の学生に負けないほど大きな声で一緒に歌い、手拍子を送る者も多かった。またその中で、BTSの曲に合わせてリボンを使った演舞を披露するなど、特技をいかしたパフォーマンスが光っていた。中国の学生たちは、複数のグループに分かれて様々な演目を準備していたようである。例えばトップバッターを務めたグループは、広い舞台を使ってミュージカル調のステージで観客を楽しませた。また別のグループは、美しい映像で中国の伝統的な食事を紹介してくれた。何人もの日韓学生がこの美食のためにまた中国を訪れようと決めたことだろう。さらに他のグループが挑戦したのは、フェミニズムをテーマにしたアニメーションのリアルタイム吹き替えである。文化交流の中でも、私たち日中韓に共通の主題をカジュアルに取り入れてくれた。

日本の学生たちは日本文化に関するクイズ大会を開催し、中韓の各5パネルと来賓の先生方、計11チームが優勝を競った。1つ目のクイズは桃太郎。舞台上で劇が始まり、「…ここで川から流れてきたものは何でしょう?」という風にクイズを挟みながら物語が進んでいった。インパクトが強く、会場の雰囲気がとてもにぎやかになった。2つ目はアニメ。ジブリ・ジャンプの作品名を当てるクイズで、予想以上に正答率が高かった。国を越えて同じ作品を楽しんでいるのだなあと親しみが深まった。3つ目はオノマトペ——「この英語の擬音は、オノマトペ=日本語で何と表現されるでしょう?」。日本語独特の表現もあれば三カ国で似ている擬音もあり、私たちの共通点/相違点を体感することができた。4つ目はおりがみ。切り絵の制作動画を完成直前まで視聴し、おりがみを開いた後の形を予想した。これがなかなか難しく、それまで下位だったチームが追い上げるなど盛り上がりを見せた。また、ひとり1つカブトのおりがみにも挑戦した。結果の集計後、優勝チームにはクイズテーマにまつわる賞品が授与された。それ以外のチームも参加賞のお菓子を受け取った。1時間弱と長いステージだったが、最後まで会場が一体となって楽しんでいた。

最後に、中国グループが全ての学生をステージに招いた。どうやらみんなでダンスをするらしい…とざわめく中で流れてきたのは、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」。アイドル衣装に身を包んだ中国学生の完璧な振り付けに(特に日本の学生が)感心したり、真似をする中で動きの難しさに笑いあったりしていた。日中韓の学生が入り混じって踊る姿からは、確かに三カ国の未来への希望が感じられた。

(高橋 佑稀乃)

(日本団が文化交流セッションで演じた桃太郎の様子)

<観光>

日中韓ユースフォーラム4日目を迎え、北京観光の日がきた。まず、私たちが向かったのは、Chinese Traditional Culture Museumである。この美術館は、2022年に建築されたもので、非常に新しい美術館である。持ち物検査などを通過し内部に入ると、大きな吹き抜け空間が広がっていた。外部は細部にまでこだわった細かなディテールが特徴である一方で、内部はその対照的な大きな空間が私たちを出迎えた。建築的な魅力がいっぱいあるものの、私たちに与えられた見学の時間は約1時間。参加者は続々と展示品を見に行った。

この美術館での展示では、中国の文化や道具をはじめ、古代からの歴史を見ることができた。有形のものから無形のもの、小さいものから大きなものまで、幅広く展示されていたのが印象的である。また、道具を作るための石、彫刻するための石など、『石』と一言でいっても様々な種類があるが、それらを実際に触ってみることができたのは、非常に面白い体験であった。加えて体験という点でいうと、水を付けた筆を使って文字を書く体験もあった。参加者の多くが自分の名前や、中国語を書いて楽しんでいた。展示品を見るのはもちろん、体験をしながら美術館を回ることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。正直、1時間では回りきることができないほど、量は多く、内容は濃かった。

約1時間の見学が終わり、待ちに待った自由な観光の時間がやってきた。多くの参加者がこのプログラムを通してできた友人たちとの観光を楽しもうとしていた。しかし、美術館を回っている間に私たちは空腹に。まずは、昼食を食べに行くことになった。三ヶ国の参加者10人が集まった私たちのグループでは、中国の餃子を食べに行くことに決まった。10種類を超えるタレが並ぶブースで、自分の好きなようにタレを組み合わせて作ることができた。また、焼き餃子は日本のものよりも大きく食べ応えがあり、水餃子は皮も中身も豊富な種類があった。緑色の皮できゅうり味など、日本では見られない餃子を堪能することできた。

食後のデザートといきたかったところだが、餃子を食べすぎてしまい、コーヒーを片手に次の目的地、天安門へ行くことに。私たちを含め、天安門を訪れる人が多かったように思う。やはり、天安門での事件は、中国にとっても世界にとっても大きな出来事であり、そのような歴史的重要性の高い場所を訪れたいという人が多かったのだろう。内部に入るには身分証を持つ中国人にお願いしなければならないが、幸い中国人の友人が入場するための登録をしてくれたおかげで内部まで入ることができた。現在は当時の事件の面影はなく、規模の大きな広場という印象が強かった。

予想以上の広さに足が棒になり始めた私たちは、ホテルへ戻り、夕食にデリバリーを注文することになった。やはり北京に来たからには外すこのできない料理!北京ダックを食べた。リラックスした体勢で、会話を楽しみながらホテルで食べたこの夕食を、私たちは忘れることはないだろう。その後は、続々とホテルへ戻ってくる参加者たちが集まり、帰国前の最後の時間を楽しんでいた。

北京観光において、中国の友人なしでは十分に楽しむことはできなかっただろう。公共交通機関の利用、お店での注文、観光地の事前予約、英語での説明、道案内、おすすめの紹介など、中国の友人に助けられた場面は数えられないほど多かった。彼らに感謝することはもちろん、彼らが日本に来た時には案内をしたいと心から思うことができた。今回のプログラムを通じて、三ヶ国がお互いに協力し合える関係性を構築できたことは私たちの財産であり、このような関係を作れたことに感謝を感じた4日目であった。

(山岸 未侑)

(羽田空港に帰国した日本団)

<おわりに>

最終日、朝5時にホテルを出発した日本団は帰路についた。数日間、新鮮な環境下で熱い議論や深い対話を重ねた団員たちの顔には一抹の疲れも見えたが、どこか達成感の漂う雰囲気であった。

今回の第11回 日中韓ユースフォーラムでは、日本団として多くの収穫があった。第一に、日本の団員それぞれが世界の舞台で躍動し、そこに自信を持って帰国できたことである。第二に、国境や国籍のステレオタイプを超えた「人としての交わり」を実体験として経験できたことである。第三に、今後より一層重要性の増す日中韓の関係において、若者同士の硬く繋がったコミュニティーが形成できたことである。

コロナ禍で一時延期されていた日中韓ユースフォーラムが、再度こうして無事に開催されたことは、今後の日中韓関係に好影響を与える大きなターニングポイントであった。今回の開催に大変ご尽力いただいた、日中韓の国連協会や中国人民大学の皆様、日本団としては「志」を学生にご教示くださった長谷川祐弘先生や、準備面で大変お世話になった日本国連協会の金薫好さん、長川美里さんをはじめとするJCK OBOGの方々に心からの敬意と感謝を示したい。今後も多くの方々の支えと共に、日中韓ユースフォーラムが毎年開催され、三カ国の協調が促進されていくことをここに願う。

(池上慶徳)

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